講座514 出生前検査を考える

 目 次
1.ダウン症の甥
2.出生前検査を考える

1.ダウン症の甥

Yは22歳。妹の次男です。

発話はありません。唸ったり、吠えたりするだけです。

精神年齢は測定不能ですが、おそらく1〜2歳程度だと思います。

長生きは出来ないと言われていましたが、良くも悪くもここまで健康に生きてきました。

私たちの両親は他界していますので、故郷である函館には年に一回行くか行かないかです。

したがって、妹の子育てを手伝うことは出来ませんでした。

旦那さんも単身で遠方の仕事をしています。

妹は一人でよく頑張ったと思います。

今日はYに手を繋がれて空港内を引っ張り回されながらの散歩をしました。

言葉は通じませんが、何となく雰囲気でコミュニケーションは出来ます。

色々なことがわかりました。

まず、母親を安全基地としていること。

つまり、母親との愛着形成が出来ているのです(父親とはどうなのかについては内緒です)。

支援学校時代には、担任の先生とも信頼関係を築けていたそうです。

それが面白いことに、好きな先生と嫌いな先生がいたそうです。

どんな先生が好きだったか。

優しい先生ではありません。

妹の話によると、専門的なスキルを身に付けた先生が好きだったそうです。

スキルのない先生は、しつこくやらせようとしたり、《こうすべき》とか、《こうあるべき》という発想がありがちなので、適時適切な対応が取れないのでしょう。

学校によくある話です。

それにしても、まったく言葉を話せないダウン症の子でも、やはり「信頼関係」が基盤であり、その信頼関係を築くのは専門的なスキルなのだということに納得させられました。

2.出生前検査を考える

ダウン症候群の出生頻度は1,000人に約1人の割合だと言われています。

日本では1年間に約1,100人生まれているそうです。

グラフからわかるように、ダウン症に限らず染色体異常が見られる確率は高齢になるほど高くなります。

特に40代以上で出産する高齢出産の場合は飛躍的に確率が高くなることが読み取れます。

ただし、染色体異常は出産年齢が若くても一定の確率で起こります。

20代であっても500人に1人は染色体異常を持っていることがわかっています。

こうした中で、出生前検査の動向が注目されています。

妊婦の血液で、胎児がダウン症かどうかがほぼ確実にわかる新しい出生前検査が、2013年4月から「臨床研究」として日本に導入されました。

その後2018 年 3 月に臨床研究の枠組みが終了し、一般医療への移行が始まりました。

高齢出産の増加や検査に対する認識の高まりから、出生前検査を受ける妊婦の数は年々増加しています。

そして、当然ながら問題も指摘されています。

①保険適用外であるため、高額な費用がかかる

②無認可でのクリニックが増え、十分な情報提供やカウンセリングもないまま検査が実施されるケースがある

③陰性が多いため、陽性になった場合の対策が不十分である(検査だけして「あとは夫婦で決めて下さい」で終わるケース)

どうも商業ベースでの利用が多いような気がします。

このような現状に対して、日本ダウン症協会では日本産科婦人科学会に対して次のような要望を出しています。

生まれてくる子どもは誰でも先天異常などの障害をもつ可能性があり、また、障害をもって生まれた場合でも様々な成長発達をする可能性があることについての説明をすること。出典:遺伝子検査に関する指針作成についての要望(2012)

よく言われることですが、 「障害の有無やその程度」と「本人及び家族の幸、不幸は本質的には関連がない」ということについての説明が必要であるということです。

もっと言いますと、検査を受ける人の多くは《悩み》や《不安》を抱えているわけですから、そのことに寄り添うことが重要であるということでしょう。

「母と子のまきクリニック」の兵頭麻希ドクターは次のようなクライアントの声を紹介されています。

私たちは病気が遺伝していない子供を望んでいたというよりも病気のことやそれが原因で普通の人では抱えなくていい悩みを抱えていることを理解して受け止めてくれる人や場所を探し求めていたような気がします。出典:「いのちとの出会い・出生前検査の現状と課題」(2020)

ダウン症といっても程度は様々です。

私の甥のように言葉を持たない重度の人もいれば、コミュニケーションのとれる軽い人もいます。

しかし、幸せの尺度や人間の尊厳は言葉の有無だけでは測れません。

そして、本人以外にも親や家族の幸せも合わせて考えなければなりません。

そこには国の社会保障制度の在り方もかかわって来ます。

ですから《情報》は重要です。

1.《悩み》や《不安》に寄り添える人や仕組の存在

2.《情報》と《お金》

この二つがなければ生きて行けないように思います。

最後に、ダウン症のある人の暮らしを集めた動画を紹介させていただいて終わります。(3分43秒)

「妊娠中の検査に関する情報サイト」こども家庭庁・出生前検査認証制度等啓発事業

こちらかダウンロードできます。→『みんなの子育てスキル』フライヤー

『未来のために知っておきたい みんなの子育てスキル』水野正司著・間宮彩智イラスト(マイクロマガジン)

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水野 正司

子育て応援クリエイター:「人によし!」「自分によし!」「世の中によし!」の【win-win-win】になる活動を創造しています。

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2件のフィードバック

  1. 末宗昭信 より:

    動画もありがとうございました。学び続け、よりよい人生を皆様と共につくっていきたいです。

    • 水野 正司 より:

      末宗先生、コメントありがとうございます。
      今後ともよろしくお願いいたします

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