講座477 触って欲しくない物に触りたがるのはなぜか?
赤ちゃんって、触って欲しくない物に限って触ろうとしますよね。
その習性は知っていたのですが、どうしてかなんて考えてみたことがありませんでした。
それが昨夜、本を読んでいてやっとわかったのです。
今回はそのことにつて書きます。
1.触って欲しくない物
今1歳11ヵ月の孫がまだ6ヵ月くらいの頃の話です。
私は、遊びに行くと必ず抱っこをしていました。
抱っこをすると孫は必ず《ある行動》をとりました。
それは《行きたい方向を指さしする》という行動です。
しかも、その指さしする方向はいつも決まっていました。
台所の前のある一角です。
そこに行けというわけです。
そこには《ある物》が置いてありました。
母親にとって《触って欲しくない物たち》が置いてある場所なのです。
刺抜きなどの鋭利な物や赤ちゃんが触ったらすぐに壊れてしまうだろうミニチュアです。
高い所にあるので床からは見えません。
でも抱っこされると視界に入ります。
ですから、
抱っこされる → 触るチャンス
なのです。
しかし、どうしてこんな風に触ってはダメな物を触りたがるのでしょうか?
2.赤ちゃんの本能
生まれて数週間くらいの赤ちゃんは、まだ首も座らないのに、一生懸命に体を動かして、お母さんの顔を見ようとするのだそうです。(文献:『赤ちゃんの視覚と心の発達』東京大学出版会)
これはとても不思議なことなんです。
どうしてか分かりますか?
実は、赤ちゃんには《同一のものには興味を示さない》という本能があるからです。
それなのに例外的にお母さんの顔は好んでいくらでも見ます。
これは、簡単に言えば《お母さんが好きだから》ということになりますが、
生物学的に言えば《母親の顔を見ることは生き残るために有効だから》ということになります。
お母さんの顔を覚えることは生きるために有効ですし、お母さんとの間に愛着を作る上でも有効です。
ですから《自分が生き残るために母親の顔を見る》ということです。
そう考えると《好きだからじゃないんだ》ということにはなりますが、逆に健気(けなげ)にも感じます。
それはそうと、赤ちゃんがはお母さんの顔を見るのは「例外」という話です。
基本的な本能の働きは《今までに見たことのないものに興味を示す》ということです。
これを「新奇選好」と言います。
この「新奇選好」という本能も赤ちゃんが生き残るために必要なものです。
新しい環境に生まれ出て、その環境にあるものを調べる。
毎日毎日調べて、自分がいる環境を学習し、そこに合うように発達していくわけです。
1歳半くらいまでは口唇期(口で物を調べる時期)です。
色んなものを口に入れて調べますよね。
これも「新奇選好」です。
今まで口にしたことのないものほど興味を示して口に入れます。
手指が自由に動くようになると、今度は色んなものを触りたがります。
これも「新奇選好」です。
小児科医の山口有紗さんによると、乳幼児は「1秒に200万本のシナプスが形成される」そうです。(出典:公益社団法人子どもの発達科学研究所2024.2.12セミナー講演「子どものウェルビーイングをつくるもの」)
「あ!」と声を出した瞬間に「200万本」の神経回路が脳内で形成されるのです。
具体的な場面で言いますと、赤ちゃんが立方体の積み木を口に入れた瞬間に、脳はその形や感触を察知して立方体に関する様々な情報を学習するということです。
紙をビリビリ破いたり、ティッシュを次々引っぱり出したりするたびに膨大な神経回路が脳内に形成されているはずです。
そして困ったことに、赤ちゃんには新奇選好という本能がありますから、まだ触っていない物ほど触りたがります。
新しいものを触ることによって新しい神経回路が作られます。
そうやって環境を学習して行くわけです。
言ってみれば、毎日めちゃくちゃ勉強しているわけです。
3.学習意欲を上手に育てる
ですから、私が孫を抱っこすると、
抱っこされる → 触るチャンス
と、今まで視界に入っていなくて、まだ触らせてもらっていない場所を指さすわけです。
「新しいことを勉強させて!」
と言っているわけです。
そういうわけですから、私は母親がダメと言ってる場所でも触らせてしまいます。
よくいますよね、こういう爺さん。
その時は、《孫の好奇心を大事にしたい》というくらいの考えしかなかったのですが、
この本を読んで、《そうだ!これが「新奇選好」なんだ!》と氷解したわけです。
ですから熱いアイロンなどの本当に危険なものは、赤ちゃんの触れる場所に置いたらダメですね。
赤ちゃんは新しいものほど確認したがるわけです。