講座430 読み聞かせの極意!

子育てに関心のある方なら「読み聞かせ」が大切なことはよく知っていると思います。

でも、多くの方の理解はまだまだ浅いんです!

「読み聞かせ」は多くの方が思っているより、もっとずうっと重要なのです!

今回の記事を読むと、「読み聞かせ」に対する意識がガラッと変わると思います。

キーワード:デフォルトモード・ネットワーク(DMN)、ナラティブ機能、共同注視

 目 次
1.最初に「大人」が絶対に必要!
2.読み聞かせにおける「指さしスキル」
3.読み聞かせの時に文字を指さすか?
4.「語り聞かせ」による想像力の発達

1.最初に「大人」が絶対に必要!

2ヶ月の赤ちゃんに絵本を読んであげるとしましょう。

初めて絵本を見る赤ちゃんにとって、「絵」と「文字」は意味不明の記号です。

リンゴの絵を見せられても、それが何なのか分かりません。

そこでお母さんが「リンゴ!」と声に出してあげることで、赤ちゃんは何かを感じ取ります。

その時に指を指してあげると、その方向を見るかも知れません。

そこでまた、何かを感じ取ることができるかも知れません。

この「何か」は漠然とした何かです。

なぜなら、赤ちゃんはまだ、《ものには名前がある》ということを知らないからです。

リンゴの絵を見ても、その絵に「リンゴ」という名前が付いていることが分かりません。

ただ、そのページを開くたびに、お母さんがそれを指さし、「リンゴ」という音を発するので、《どうしていつも「リンゴ」という音を出すのだろう》というくらいにしか思っていません。

でも、赤ちゃんにはこの「どうして」という疑問を持つ能力があるらしいのです。

そして、そのうちにいつか次のように考える瞬間が来ます。

もしかして、お母さんが指さしている「この絵」が「リンゴ」ということなのかな?

この能力は「推論」です。

赤ちゃんには推論する能力もあるらしいこともわかっています。

この能力の発現時期は311日(約10カ月)と言われています。(徳永2003)

さらに、言葉を話せるようになると、このページをめくった時に、自分から指さしをして「リンゴ!」と言えるようになります。

最初はお母さんが教えているように見えますが、実は赤ちゃんは自分から疑問を持ち、推論して学習しているのです。

ここで重要なのは、最初に大人が教えてあげないと疑問も推論も生まれないということです。

「リンゴ」という音も、「指さし」という助けもなければ、そのページは意味不明の記号のままです。

でも、お母さんとの読み聞かせを何度も経験することで、その絵が「リンゴ」だということに気づき、理解します。

そして、言葉を話せるようになると、絵本を見て自分で「リンゴ」と言えるようになります。

その時、お母さんは、「すごい!『リンゴ』って言えたね!」とか、「そう!リンゴ!」などと言ってほめますよね。

つまり、最初は教えて、いつかはほめる時が来るわけです。

「教えて、ほめる」の原則です。

また、やがて、ある時に実物のリンゴを見た時にも、「リンゴ!」って言えるようになる時が来ます。

その時、お母さんは本当にびっくりして「スゴイ!」と言ってほめることでしょう。

この成長の出発点を思い出して下さい。

最初にお母さんが絵本を読んであげる時に「言葉」と「指さし」を用いたことが出発点です。

読んであげるだけではなく、指も指してあげる。

読み聞かせをする時の「指さし」の重要性は多くの研究者が指摘しています。

言語が指さしに依存し、指さしが非言語形式から言語形式への重要な移行に関わっている」(Tbmasello et aL,2007 )

2.読み聞かせにおける「指さしスキル」

では、読み聞かせをする時に、どんな風にやるのかを紹介しましょう。

東京都の母子20組を対象にした調査を例にします。

①「ぞうさん!」「これ、ぞうよ」と指を指す【命名型】
②「これなあに?」「何してるの?」と指を指す【
質問型】
③「~してるよ」と指を指す
【説明型】
➃「あっ!」「見て!」と指を指す【
注意喚起型】
⑤「~してちょうだーい」と指を指す
【要求型】
⑥「ここは?」と指を指す
【援助型】
出典:「乳児期の絵本場面における母子の共同注意の指さしをめぐる発達的変化」菅井洋子ら(2010)

イメージできますよね。

この調査では、「普段通り絵本を一緒に読むように」依頼しました。

家庭では読み聞かせの時に普段からこのような指さしをしているということです。

では、読み聞かせの時に「指さし」をすると、どんな効果があるのでしょうか?

(1)言語の習得に効果がある

(2)ワーキングメモリの発達に効果がある

(3)「心の理論」の獲得に効果がある

(1)~(3)に効果があることは既に研究レベルで実証されています。

「指さしや共同注意が,言語習得や心の理論にとっても重要であるという考えは,今では広く受け入れられていることである」(Bruner,1995;Eilan,Hoerl,McCormack ,& Roessler,2005;Tomasello,1999等)

ここでは詳しくは述べずに、ざっくりと解説します。

簡単に言うとこういうことです。

それは「共同注視」が行われるから(三項関係が成立するから)である。

「共同注視(ジョイントアテンション)」というのこれですね。

お母さん⇔子ども⇔葉っぱ》という三つの関係が成立している状態

https://yotsuyagakuin-ryoiku.com/blogs/kotoaga-osoi/

絵本の読み聞かせでも三項関係が成立します。

お母さん⇔子ども⇔絵本

読み聞かせる時に、《お母さん》は《絵本》を見ます。

この時、《お母さん》は《子ども》に目をやり、「指さし」をします。

《子ども》は《お母さん》を見て、「お母さんは絵本を見るように促しているんだな」と察します。

そこで、《子ども》は《絵本》を見ます。

これが、読み聞かせにおける共同注視です。

この時にお母さんの「指さし」あるいは「目くばせ(視線移動)」が重要な役目をします。

https://www.daiwa.jp/sodatte/child/s0374/

このことが「心の理論」や「思いやり」ということにつながることは「講座299~301 思いやりを育てる方法」で解説しました。

長くなるので今回は省きます。

この時に「指さし」あるいは「目くばせ(視線移動)」が重要な役目をします。

このことが今回の目玉です。

ちなみに、「共同注視」が成立し始めるのは1歳前後と言われています。

この頃になると子ども自身も指さしをするようになり、読み聞かせが盛り上がるようになります。

逆に言うと、それまではお母さん中心の読み聞かせ時期です。

新生児期~1歳頃まで:大人中心の指さし付き読み聞かせ

1歳前後:子ども自身の「指さし」が加わる

1歳前後:三項関係に子どもが発する「言葉」が加わる

これが「指さし付き読み聞かせ」の発達順序です。

3.読み聞かせの時に文字を指さすか?

さて、当然ですが、絵本には言葉も書かれています。

絵だけの絵本もありますが、それだって表紙にはタイトルが書かれています。

皆さんは読み聞かせの時にタイトルや文字(文)を指さしていますか?

ここに興味深い調査結果があります。

先ほどの20組の母子の中に、3人だけ、文字への指さしをしているお母さんがいました。

そして、その中の1人の子は2歳半で文字の働きに気づいている様子が見られたました。

その子は自分から絵本の題名を指さして、その合図でお母さんが題名を指さししながら題名を読み上げるという相互作用が観察されたということです。菅井洋子ら(2010)

大人が言葉を指さしていると、子どもは「文字の働き」に気づく

これが「文字」というものに気づく最初の学習場面です。

「指さし」の効果ってすごいですね。

さすがに本文まで指さしをするのは大変ですが、題名くらいなら真似できそうです。

それだけでも「文字」というものの働きを認識できる能力が開発されることになると思います。

4.「語り聞かせ」による想像力の発達

最後に応用編です。

これは私が孫に対して実践しているスキルです。

子どもに読み聞かせをしていると、大人の側が、絵本の中の言葉(文章)を覚えてしまう場合がありますよね。

たとえば、私が孫によく読まされる本に『がたんごとん がたんごとん ざぶんざぶん』があります。

何度も読まされているので私が言葉を覚えてしまいました。

がたんごとん  がたんごとん  ざぶんざぶん
のせてくださーい

こういう文で始まるのですが。

先日、私は孫を抱っこしている時に、孫を揺らしながら、この絵本の言葉を語り聞かせてあげました。

抱っこしているだけですから絵本はありません。

絵本の中の言葉を語って聞かせたわけです。

これを「語り聞かせ」と言います。

すると、どうなったかわかりますか?

語り聞かせを始めた途端、孫の表情が変わりました。

明らかに何かを想像している顔になったのです。

何を想像しているかの予測はつきますよね。

絵本の絵を思い出していたに違いありません。

その場面を想像している

想像力を働かせているわけですね。

これが「語り聞かせ」の効果です。

みなさん、こういう時の子どもの表情を想像してみてください。

「何かを想像している顔」ってどんな顔だと思いますか?

ぼんやりしている顔

そうなんです。

外から見たら「ぼんやりしている顔」なんです。

多分、この時の脳は「安静時の脳」になっていると思います。

安静時の脳の活動には5種類あると言われていますが(虫明元『学ぶ脳』2018)、この場合はその中の1つである「デフォルトモード・ネットワーク」が働いていると考えられます。

【デフォルトモード・ネットワーク(DMN)】
脳が物事に集中していないときや、ぼんやりとした安静状態のときに活性化する脳領域です。DMNは、空想や想像、物事を思い出すなどの脳活動と関係しています。(Googleバード)

絵本を使った「読み聞かせ」がオンラインでの脳の活動だとしたら、

「語り聞かせ」による想像はオフラインでの脳の活動です。

目の前に絵本はないわけですから脳内にある記憶の中から該当する場面を想起しているのだと思います。

この時は、海馬と大脳皮質との間で情報のやり取り(記憶の再構成)が行われているはずです。

これが「想像する」です。

そして、このネットワークを何度も使うことで「想像力が育つ」のだと思います。

私の父親は、夜、布団に入ってから、私と妹に昔話を語り聞かせてくれました。

私の師である向山洋一先生も、お父様から芝居の語り聞かせをしてもらって育ったそうです(『向山家の子育て21の法則』)。

思えば私も娘たちに「その日にあった出来事」を「お話」にして聞かせていました。

このような活動を「ナラティブ」と言います。

【ナラティブ】英語で「物語」「語り」を意味する言葉です。語り手自身を主役とした物語を表します。(Googleバード)

「読み聞かせ」の応用としての「語り聞かせ」で想像力を育むことができる。

このスキルこそ「読み聞かせ」の極意です。

皆さんもぜひやってみて下さい。

最後に私の孫の写真を紹介させていただきます。

現在1歳半の孫は本が大好きです。

自分一人で読書をします。

自分一人の読書というのは、記憶の再構成をして想像力を働かせる活動です。

これを「ナラティブ機能」と言います。

【ナラティブ機能】
ナラティブ機能とは、脳が持つほぼ唯一の形式です。読書をしているときの脳は、言葉を通して世界を知り、整理する働きをしています。読書は、想像力を育んだり、抽象的な思考能力を鍛えたりするために非常に良いとされています。読書をしているとき、脳は言葉を通して、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚という五感の記憶を喚起し、遠い世界に思いを馳せます。読書は、脳が足りない情報を補うため、想像力が身につきます。また、読書は、認知・情動・コミュニケーションに関わる脳機能についての分野を専門とする脳科学者もいます。(Googleバード)

今回は今までにない角度から「読み聞かせ」について深掘りしてみました。

このような子育てを意識的にすると、お子さんの脳は健康的に発達すると思います。

参考文献:「乳児期の絵本場面における母子の共同注意の指さしをめぐる発達的変化」菅井洋子ら(2010)

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水野 正司

子育て応援クリエイター:「人によし!」「自分によし!」「世の中によし!」の【win-win-win】になる活動を創造しています。

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