講座380 「字が汚い」とはどういうことか
お子さんの字が気になる方はいませんか?
特に、新一年生は配慮が必要です。
マスの中に文字を書く経験なんて日常生活の中にはあまりありませんからね。
今回は「字が汚い」とはどういうことかについて解説します。
2.「字を書く」とは
3.支援のユニバーサルデザイン
4.「ひらがな」は難しい
5.斜線構成認知
1.「字が汚い」とは
一般に「字が汚い」と言われるお子さんには様々な理由があります。
努力だけで解決する問題ではありません。
まず、考えられるのは「鉛筆の持ち方」ですよね。
これは本人が苦痛を感じていなければ「まだいい方」です。
心配なのは次の3つです。
(1)姿勢が悪い
(2)見え方に困難がある
(3)書き出し方に困難がある
姿勢が悪い(正しい姿勢を保持できない)のは、本人の努力だけでは治りません。
大事なのは努力を強要したり、責めたりしないことです。
①注意が長続きしなかったり、②体幹が未発達であったりする場合があります。
①はADHD(注意欠如多動症)の特徴です。
②はDCD(発達性協調運動症)の特徴です。
両方重なっている場合もあります。
また、SLD(限局性学習症)の場合もあります。
これらの場合、一番大切なのは、
本人の努力の問題ではない
ということです。
責めたり、叱ったりすることは、その後の発達に対してマイナスです。
大切なのは理解と支援です。
その子が抱えている困難さを理解し、支援し続けることです。
それが発達の改善につながる基本スタンスです。
(2)の「見え方に困難がある」場合も同じです。
「見え方」というのは視力とは別です。
たとえば、字体によってこんな風に見えている場合があります。
また、こんな風に見えてる子もいるそうです。
本人にはこのように見えているわけですから、正しく書こうと思っても正しく書けないのは当然です。
2.「字を書く」とは
(3)の「書き出し方に困難がある」とはどういうことでしょうか?
たとえば、お手本がこれだとします。
そして、「見え方」に問題はないとします。
ちゃんと見えているのです。
でも、書き始めるとこうなります。
考えられるのはワーキングメモリ(作業記憶)の低さです。
「北海道」という文字を目で見て認識することはできるのですが、
ノートやプリントに視線を移す間に、細かい所の記憶が消えて、書き出す時には「あやふや」になっている場合があります。(ADHDの特徴)
もうひとつ考えられるのは「不器用さ」です。
目で見て形は認識できているのですが、それを出力しようとした時に、うまく指先が動かない場合があります。(DCDの特徴)
どうですか?
これらのケースに対して、
「なんできれいに書かないの!」とか、
「もっときれいに書きなさい!」と言えますか?
くり返しになりますが、そういう言葉は発達にとってマイナスとなります。
3.支援のユニバーサルデザイン
このように「字を書く」というのは意外と大変なことなのです。
【A】真っ白い紙に自由に好きな文字を書いていい
【B】マス目の中にお手本通りの字を書く
【A】と【B】では脳の使い方が全然違うわけです。
もうすぐ一年生たちは「ひらがな」を習い始めますね。
二年生以上は、また新しい漢字を習いますね。
その時の大きな支援がこれです。
「指書き」と「なぞり書き」
鉛筆を持つ前に、指を使って書くのが「指書き」です。
指書きには、①お手本の上で書く段階、②お手本の横で段階、があります。
そして、薄い字をなぞって書くのが「なぞり書き」です。
この過程を経て、最後に「うつし書き」(白いマスの中に自分で書く)へと進みます。
①指書き → ②なぞり書き → ③うつし書き
これが支援のユニバーサルデザインです。
4.「ひらがな」は難しい
ひらがなは難しいのです。
戦前までは先に「カタカナ」を習っていました。
カタカナの方が簡単だからです。
でも現在は「ひらがな」が先ですから、その難しいひらがなの中でも、できれば簡単なものから教えてもらいたいですよね。
「分類基準」を見てみましょう。
「タテ線」「ヨコ線」これは簡単です。
「曲線」は難しいです。
ここまではわかりますよね。
では、次の三つを「書くのが簡単な順」に言えますか?
・つ
・く
・し
基本的に、一番簡単なのは「く」です。
直線だけですからね。
「つ」と「し」はどちらが易しいでしょう?
どっちも簡単だと思いますか?
難易度表でいえば、どちらもレベル2ですね。
でも違いがあります。
「つ」は時計回りの曲線です。
「し」は反対回りの曲線です。
簡単なのは反対回りの「し」の方です。
時計回りの曲線を書く時は小指球(しょうしきゅう)を軸にして鉛筆を持っている指を大きく動かさねばなりません。
小指球というのは小指の付け根から手首に向かっているふくらみの部分です。
鉛筆の跡が黒く汚れたりしますよね。
ここがノートにしっかりとくっついていなければレベル2の曲線群が難しくなります。
中でも「つ」のような時計回りの文字は大きな動きを必要とするので一年生にはハイレベルなんです。
指で「し」と「つ」を書いてみてください。
「し」は、小指球が固定さえされていれば、割と指先だけで書けます。
「つ」は、小指球を軸にして、大きく回しませんでしかた?
このように平仮名には難易度があるということです。
そして、小指球が大事な役割を果たしていることがおわかりいただけたと思います。
レベル2でこれですからね。
3以上はもっと複雑なポイントがあります。
5.斜線構成認知
・つ
・く
・し
一年生にこの三つを教える自信がありますか?
実はこれだけではないのです。
さっき、基本的に一番簡単なのは「く」だと書きました。
「基本的には」です。
お子さんによっては「く」を苦手とする子もいます。
「斜めの線」だからです。
そして、斜めの線を苦手とするお子さんの中には「斜線構成認知」に障害を持つお子さんもいます。
斜めの線が見えづらいのです。
保護者であっても気づかない場合があります。
このようなプリントを用意して、
「上の真似して書いてごらん」と調べてみればだいたい気づきます。
「何かへんだな?」と思ったら発達支援センターなどに相談してみることができます。
学校に相談してもつなげてくれるでしょう。
早く気づけばおうちでトレーニングできます。
このようなドッツカードを用意して、模写(同じように線を引かせる)練習です。
- 二点を決め、その間にまっすぐにおはじきを並べる
- 斜めの線を運筆の課題として、繰り返し練習する
- 点図形や図形模写の課題で難しい問題が出されたら、それが何に見えるかの見立てをする
- どの点からどの点まで線を引くのか・・ということをしっかり意識する
出典:週刊こぐま通信「子どもはどこでつまずくか」(17)
平仮名を教えるだけでもこんなに沢山の知識が必要なんです。
レベル2の「つ・く・し」を指導する前の準備でさえ、こういうことなんです。
学校の先生の仕事には、まだまだ沢山の「知られていないこと」があります。
くが斜め線と言われてみて気づきました。
分析しないと子どもの困難さを見逃してしまうと思いました。
コグトレにもなりますねー。