講座357 住所の書けない子どもたち

私の尊敬する人物に大阪の辻 由起子さんがいます。

一言では説明し切れないほど活動範囲の広い方です。

今、思いつく範囲で紹介させていただきますと(関連するキーワードで)、

ヤングケアラー、ホームレス、性教育、防災教育、人権教育、虐待、DV、シェアハウス、子育て支援などなど。

睡眠時間が少なくて倒れるのではないかと心配してしまいます。

今回はその辻さんが取り組まれている「役所の手続き問題」について書きます。

 目 次
1.郵便教育
2.高校入試の願書
3.辻さんの活動に衝撃
4.日本の行政手続き
5.まとめ

1.郵便教育

平成21年度の全国学力調査で「はがきの宛名の書き方」が出題されました。

その結果、全国の小学6年生の3分の1が正しい宛名の書き方を知らないという実態が明らかになりました。

要するに手紙を出した経験が少ないということです。

これは大変だということで、私達TOSSは日本郵便が連携して、「郵便教育をすべての子どもたちに」を合言葉に「手紙の書き方体験授業」を始めました。

私も毎年、暑中見舞いや年賀状の季節に「葉書の書き方」を教えました。

日本郵便さんと連携しているので実物の葉書を使うことも出来ました。

もちろんですが、自分の住所を知らなければ手紙は出せません。

子どもたちは「住所を知る」「住所を書く」という学習をすることになります。

さらに、本物を葉書、郵便制度を使うことによって、実社会での体験をすることになります。

自分が出した手紙が相手の家に本当に届くわけですから。

くだらない宿題を出すより、よっぽど役に立つ勉強だと思います。

2.高校入試の願書

私は中学校での勤務経験もあるのですが、

「願書を書く」というのは中学生にとって非常に緊張する作業だということを実感しました。

自分の人生がかかっている大事な申請文書です。

多分、それまでの人生の中で初めて経験する「公的申請書類」ではないかと思います。

私は教頭でしたから全生徒の願書をチェックしました。

もちろん本番願書は担任や学年でのチェックが入って完成した状態になっています。

しかし、練習段階での願書は惨憺たるものでした。

自分の住所を書けない

親の名前を書けない

字が汚い

字が汚いのは私も同じなので同情します。

でも、「住所」とか「保護者名」は書けるようにしてあげたい。

何のための義務教育なのかと情けなく思ってしまいました。

学校教育は9年間何をしているのか。

切腹して詫びたくなりました。

3.辻さんの活動に衝撃

しかし、そんな私の思いはまだまだ小さいものでした。

2022年9月17日。

Facebookでの辻さんの投稿です。

人生がこじれていく原因のひとつ。
役所の書類。

税金。社会保険料。
「善人」であるはずの役所に「助けて」とすがった時、
まず確認されるのが課税額と税金等の支払いです。

そこでうまく福祉につながらないと、「悪人」を頼り出します。

少年院の教材で使った書類。
まずはどこの自治体も「住民異動届」から始まります。

ー 前の住所わかる?
微妙

ー 本籍って知ってる?
知らない

ー 世帯主って誰?
わからない

ー 筆頭者って意味わかる?
わからない

ー 続柄って読める?
読めない

さらに困難を極めるのが国民健康保険です。
前は誰の・どこの保険に入っていたのか?
親の扶養?会社?自分?

払ってなかったら督促がきてるけれど、それすらわからない。

課税額は?
社会保険喪失証明書は、職場とトラブルを起こしていたら、連絡を取るのもハードルが高いです。

親から虐待を受けていると、扶養がどうなっているか、聞きたくても聞けません。

住む場所がなくて居所を転々としていると、どこの、何の支払いが来ているのか、わかりません。

国民年金の減免申請にたどり着く頃には、時間も気力も尽き果てています。

そして「生きたい」と思えなくなり、仕事に行くのもイヤになる。

ますますお金がなくなり、生活費すらなくなる。

こうした状況は子どもたちの自己責任でしょうか?

義務教育って一体なんなのでしょうか?

実社会と学校教育はつながっているのか!

日本の学校教育制度は、学習内容も含め、まだまだ穴だらけです。

学制発布は1872年(明治5年)ですから、まだ150年くらいしか経っていません。

人類の歴史からするとまだ発展途上なのでしょう。

しかし、子どもたちは今を生きています。

私たち大人には「よりよくつなげる役目」があります。

くだらない宿題くらいは明日にもなくせます。

手紙の書き方だって一週間以内に教えられます。

その大人が学校の先生だったら、やれることはもっとあるでしょう。

親にはできないことが教師にはやれます。

そういう意味で学校にはまだまだ期待しています。

4.日本の行政手続き

実社会に対応し切れていない学校教育にも問題はありますが、

問題はそれだけではありません。

貯金が尽きて「死」を意識した頃に、こんな紙が役所からやってきます。

【催告書】
【上記期限までに完納または連絡・相談等がない場合は、あなたの財産(給与、預貯金、売掛金、不動産等)を差押処分することになります】

数日後に出産を控えた妊婦のもとに来たこともあるので、私がしつこく掛け合いましたが「一括完納にしか応じないと差し押さえ」という返答でした。

頼れる人が誰もいない若者が、今日、生きるのが必死で、食べるものもない状態で、居所を転々としている時に、以前住んでいた自治体の減免申請に思いを馳せる余裕なんて、ないです。

そもそも、役所の手続きの仕方、義務教育の間に誰か教えた???

「納税の義務」しか、教えてないやん。
実務は誰も、教えてへんやん。

教えてないのに、できるわけがないやん。
受験勉強を教えるより、役所の手続きを教えた方が、国益になるで?

そして人によってはこれに「奨学金」という名の、やさしい仮面をかぶった、恐ろしい取り立てが待っている…?

現在、大学生の2人に1人が奨学金を利用しているそうです。

社会人スタート時におよそ300万円の借金があるそうです。

「人生ゲーム」ではなくリアルな日本社会です。

それにしても、です。

面倒な手続きを要する行政書類の在り方にも問題があります。

手続きのために必要なのは「紙」、しかも「記入欄」が多い。

しかも、使われている「用語」が普通じゃない。

しかも、役所の中で複数の部署を歩き回る必要があったりする。

本人確認をするのにも「別な何か」が必要。

未だに「ハンコ」。しかも印鑑登録あ必要だったりする。

一度で終わらないので何度も役所へ通う。

やっと手続きが終わってもその結果が返ってくるのは数週間後。

日本の行政はそういう社会です。

出生届一つとっても「健康保険」「乳幼児医療」「児童扶養手当」「こんにちは赤ちゃん」

など、提出する書類がたくさんあります。

行政は産褥期というものを知らないのでしょうか?

江戸時代には「床上げ」という習慣があって、産後の女性は「布団を敷きっぱなしにしていてよい」「家事を休み上膳据膳で産室にこもっていてよい」とされていたそうです。

伝統が受け継がれていないということですね。

ちなみに、エストニアでは出生届の提出や各種育児手当等の申請などは病室からスマホで完結するそうです。しかも5年前から!(YOKOさんのブログ「電子国家エストニアでの出産を終えて」

6.まとめ

今回は辻由起子さんのFacebook投稿に刺激を受けて記事を書き始めたのですが、思いが強すぎて話がアチコチに行ってしまいました。

まとめることは難しいのですが、

子どもたちは今を生きています。

そして、私たち大人には「よりよくつなげる役目」があります。

私は私の経験を使ってでしかその役目を果たせません。

その出力先が「子育て支援」です。

これからもぼちぼちと発信を続けます。

この記事に投げ銭!

水野 正司

子育て応援クリエイター:「人によし!」「自分によし!」「世の中によし!」の【win-win-win】になる活動を創造しています。

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3件のフィードバック

  1. タミー より:

    おっしゃる通り、役所に職場に早めに出産報告の書類提出が求められています。
    電子申請や簡略化できると良いです。

    手紙は届く楽しみ、お返事の楽しみがあります。
    手紙文化を残したいですね。

  2. 畠山文 より:

    以前暮らしていた地域には産院がなく、義実家のある地域で出産し、産後は義実家へ。その間、出生届けを出しに、赤ちゃんを義実家に置き、ドキドキしながら帰宅したことを思い出しました。出生届けのみならず、手当や補助を受けるために度々役所へ。小さい子がいたり、働いていたりだと、役所に行くのも大変ですよね。

    それと、18際くらいのときの大学受験の願書等の手続きで、親に、大人なのだから、自分で調べてできるようなっているのが常識のように言われ、困ったことも。義務教育で教えるのはいいと思いました。自分の子には、突き放さず、教えたいと思いました。

  1. 2023年3月3日

    […] 講座357 住所の書けない子どもたち […]

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