講座49 発達障害と運動
発達障害の子の「運動」との関係について解説します。
2.運動のデメリット
3.まとめ
1.運動のメリット
それは、ズバリ!
「健康の輪」が生まれること
運動をすると、お腹がすくし、ぐっすり眠れるので、
「早寝・早起き・朝ご飯」が持続可能になる
ということです。
発達障害のお子さんには、「まわりの人の理解」と「本人の生活習慣」の両方が必要です。その「生活習慣」というのが、「早寝・早起き・朝ご飯」であり、それをうまく回してくれるのが「運動」というわけです。
2.運動のデメリット
しかし、発達障害のお子さんに運動をさせる時には注意が必要です。
(1)感覚的に楽しめない!
(2)苦手なことはしたくない!
(3)運動がトラウマになる!
一つずつ説明します。
(1)感覚的に楽しめない!
健常発達のお子さんは、ハイハイができるようになると、何度もハイハイを楽しみます。
これは、ハイハイをすることによって、「おもしろい!」「気持ちいい!」「楽しい!」という感覚を感じとっているからです。
もし、しゃべっているとしたらこんなセリフになります。
「なにコレ! めっちゃ楽しいじゃん!」
手を床についた時の感覚、腕を動かす感覚、進む感覚、景色が変わっていく感覚、トントン鳴る音、体全体を動かす楽しさ…。
ハイハイをすることによって、そういった感覚が自分に返ってくるんです。
だから、こうなります。
もっとやりたい!
これを「くり返す(反復)」と言います。
この「くり返す(反復)」の他にも、「修正する」「挑戦する」といった楽しさもあります。
ちょっと失敗したけど、向きを変えたら出来た!(修正)
とか、
あっちの方に行ってみようかな!(挑戦)
とかです。
これらの行動のもとになっているのは、「おもしろい!」「気持ちいい!」「楽しい!」という感覚なのです。その感覚が自分に返ってくるので、くり返したり、修正したり、挑戦したりするわけです。
でも、こうした感覚が返ってこないお子さんもいます。
「気持ちいい」とは思えないわけですから、楽しくないですよね。
もっとやりたいなんて思いませんよね。
だから、自分から進んでやることは少なくなります。
無理にやらせようとしても、それは楽しくないものになってしまいます。
今のは「ハイハイ」を例にした話ですが、すべての運動において同じことが言えます。
サッカーボールを蹴ることが「楽しい」「気持ちいい」「おもしろい」と感じる子が一方で、そうした感覚が返って来ない(フィードバックされない)子もいるのです。
そういうお子さんに「あれをやりなさい」「これをやりなさい」「もっとがんばりなさい」と言っても、本質的な解決にはなりません。
子どもとの間に「理解」が形成されていないからです。
理解が大切です。
「楽しい」「気持ちいい」「おもしろい」といった感覚が返って来ない子もいるという理解です。
この理解がないと、
「自信の欠如」「自己肯定感の低下」など
自分を否定しまう結果になってしまうこともあります。
これが「運動のデメリット」の一つ目です。
(2)苦手なことはしたくない!
発達障害のお子さんの中には、もともと「セロトニン不足・ノルアドレナリン優位」というタイプの子がいます。簡単にいうと「不安を感じやすい子」です。
不安を感じやすい=苦手なことはしたくない
「苦手なことを避ける」というのは、悪いことのように思われがちですが、不安を感じやすい子にとっては、自分を守るための大事な生き方です。
ここを理解できない大人は「発達障害を理解できない」でしょう。
「不安を避ける」「不安から逃げる」というのは「自分の身を守る」という本能的な選択です。
そして、「苦手なこと」というのは不安に直結しているのです。
苦手なことはしたくない
一見、「なまけ」ているように思うこの言葉は、自分の心のバランスを守るために必要であることを忘れてはいけません。特に、教育に関する仕事をしている大人は、頭の隅にこの理解を置いていて欲しいです。
(3)運動がトラウマになる!
運動は結果が見えやすいので注意が必要です。
集団での遊び・スポーツ・部活などでは「できる/できない」「上手い/下手」が周りの人にすぐわかってしまいます。
「失敗する」「バカにされる」「挫折する」
そういう嫌な体験が付きまといます。
DCD(発達性協調運動障害)のお子さんには特に注意が必要です。
DCDはウィキペディアで次のように定義されています。
協調的運動がぎこちない、あるいは全身運動や手先の操作がとても不器用な障害を言う。
「不器用」とか「運動音痴」といった言葉で説明される発達障害です。
学校だと、図工・音楽・体育・服装などから発見されることが多いはずです。
・縄跳びをさせたら何か不自然
・跳び箱をさせたら何か変
・服から下着がいつも出たままになってる
いくつかの動作を同時にするのが苦手です。
不器用なので細かい作業をするのが苦手です。
ただし、これだけだとDCDではありません。これらの苦手が要因になって、日常生活に大きな影響を受けている場合がDCDです。
DCDの存在率は6~10%と言われます。
調査によっては数十%という場合もありますが、あまり知られていません。
知られていない理由は3つあります。
(1)自閉症や知的障害などを併発している場合があるから
(2)指導者にとってそれほど困難ではないから
(3)いつのまにか発達するケースが少なくないから
一つは、他の障害を併発している場合が多いからです。しかも「発達性協調運動障害」という診断名が長いので覚えにくいのです。
二つ目は、指導者の都合をそれほど邪魔しないということです。
授業中に奇声を上げたり、走り回ったり、友だちとトラブルになったり、教室を脱け出したりなどということがありません。
学校の先生にとっての「指導困難児童」にはならないのです。
三つ目は、10歳を過ぎる頃から発達して目立たなくなるからです。
DCDであったことに気づかず大人になるケースは多いはずです。
そのような理由から、DCDはあまり知られていないようです。
しかし!
集団での遊び・スポーツ・部活などでは「できる/できない」「上手い/下手」が周りの人にすぐわかってしまいます。
「笑っているから大丈夫!」と思われても、心の中(=脳の中)は傷ついていることは普通にあります。本人が自覚していなくても脳は傷ついているのです。
「失敗する」「バカにされる」「挫折する」
このような状況が子どもの脳を傷つけてしまうと、傷はトラウマとなって一生残ります。運動に対する「苦手意識」だけではなく、自分自身をも否定するネガティブな意識を一生引きずってしまうことも少なくありません。
特に、幼稚園~小学校低学年において重要(この時期に「発達の差」が最も目立つ)
逆を言えば、
運動機能は「10歳過ぎ」でも発達する。
この知識があれば救われる子がいるはずです。
次のような支援につながるからです。
(1)無理をさせない
(2)励ます・ほめる
(3)自分を責めさせない
「このくらいできるだろう」とか、
「やればできる!」などの精神論は危険です。
必要なのは「小さなステップ」を用意して「できる」を体験させること。
必要のない「大きな目標」を避けること。
そのことによって「みんなと一緒にできた!」と感じさせることが大切です。
3.まとめ
発達障害は「まわりの人の理解」と「本人の生活習慣」が大切であることを説明してきました。DCDはまさに「理解するための知識」ですね。
そして、「本人の生活習慣」については「早寝・早起き・朝ご飯」の重要性を説明してきました。
「運動」はその生活習慣を回すために大事な役目を果たします。
ただし、発達障害の子には注意が必要!
3つありました。
(1)感覚的に楽しめない!
(2)苦手なことはしたくない!
(3)運動がトラウマになる!
このような場合があるという知識です。
まとめると、次のようになります。
運動は必要です。
でも、「子ども」を否定してしまうほど必要ではありません。