講座577 何をして遊んだかを話すということ

今日は月曜日。

先生が年少さんの教室で、先生が「昨日は何をして遊びましたか?」って聞いています。

たくさんの園児が「はい!」と言って元気に手を上げます。

「じゃあ、Aちゃん」

先生に当ててもらったAちゃんが立ちました。

でも、なんだか変です。

もじもじしています。

「忘れちゃった?」と先生が助けます。

Aちゃんはコクンと頷きました。

「そっか。思い出したらまた教えてね。」

〝幼稚園あるある〟の微笑ましい場面です。

先生がまた言います。

「昨日は何をして遊びましたか?お話しできる人?」

また沢山の手があがります。

何気ないことですが、ここに大切なスキルが隠れています。


先生は「次、お話しできる人?」ではなく、

「昨日は何をして遊びましたか?お話しできる人?」ってまた最初と同じように言いましたよね。

この意味わかりますか?

3歳児は、ワーキングメモリ(作業記憶)が発達途中です。

そのため、先生とAちゃんのやり取りを聞いている間に、

他の子の頭の中では、最初の問いである「昨日は何をして遊びましたか?」が薄れてしまうことがあります。

だから先生はもう一度最初から〈問い〉である「昨日は何をして遊びましたか?」をくっつけて聞いたわけです。

幼児教育の世界ではこのスキルを「足場かけ(スキャフォールディング)」と呼んでいます。

これはとても重要なスキルです。

ヴィゴツキーという研究者が提唱した「発達の最近接領域」という考え方が背景にあります。

「最近接領域」というのは、〈子どもが一人ではまだできないが、大人や友達の助けがあればできる領域〉のことです。

教室の中には、様々に発達している子どもたちがいます。

また、同じ子どもであっても、その時その時で発達した能力をうまく使える時もあれば、うまく使えない時があります。

それが「幼児」です。

それが「発達途中」という意味です。

ですから、教室の中には、

聞いている間に、何を聞かれているのかを忘れてしまう子がいるはずです。

しかし、そういう子であっても、先生がもう一度最初から、最初の問いである「昨日は何をして遊びましたか?」を言ってくれると答えられる場合があるはずです。

だから、わざわざ最初の〈問い〉をくり返す。

そうやって様々な子の「発達」を促しているわけです。

もしかしたらAちゃんは、みんなが元気よく手をあげている間に発表したかったことを忘れてしまったのかも知れません。

幼児のワーキングメモリというのは、それほど〈危うい〉と思ってもいいでしょう。

忘れちゃって発表できなくなるという〝あるある現象〟は、単なる微笑ましい場面ではなく、

子どもの発達を理解できる重要な場面なんです。

「昨日は何をして遊びましたか?お話しできる人?」

せっかくの機会ですから、この何気ない場面が、幼児にとっていかに大変な作業であるかについて、もうちょっと深掘りしていきましょう。

先生が「昨日は何をして遊びましたか?」と聞いた瞬間、子どもたちの頭の中では何が起こっているのでしょう。

①昨日のことを思い出す
②遊んだことを選ぶ
③言葉にする
④順番を待つ
⑤他の子の話を聞く
⑥自分も話すか考える

ざっとですが、このような複数の処理を〈同時に〉行わなければなりません。

これが〈一瞬〉であり、その一瞬の間に、周りの子どもたちの「はーい!」という元気な声が刺激として入って来るわけです。

これは、3歳児にとってかなり負荷の高い作業です。

脳の中では「実行機能」という働きがフル回転します。

それは「ワーキングメモリ(作業記憶)」だけではなく、「抑制」や「注意の切り替え」などを含む働きです。

そうした機能が発達途中であるわけですから、まだ十分にハサミを使えない子が頑張って細かい作業をしているような状態です。

大人にとっては簡単なことのように思えることでも、幼児にとっては「負荷の高い作業」である。

この見取りがあるので「足場かけ」というスキルを用いて助ける。

すると、それは「助けがあればできる領域」なので、発達が促される。

ワーキングメモリの弱さを補うだけでなく、聞く力・思い出す力・話す力・順番を待つ力を育てる支援の場になるわけです。

どうですか? 奥が深いでしょ!

ちなみに、この日は月曜日でしたので、日曜日に経験したことはみんなバラバラです。

先生も子どもたちもお互いの情報が不足している日ですので、いつも以上に「負荷が高い」わけです。

これが火曜日や水曜日だったら別の「足場かけ」ができます。

「昨日のことを思い出してみましょう。」
「昨日は、園庭で遊びましたね、」
「砂場で遊んだ人もいました。」
「では、昨日は何をして遊びましか? お話しできる人?」

このように少し準備を入れると、エピソード記憶が呼び出されやすくなります。

これも別な角度からの「足場かけ」です。

また、今のは年少児の場合でしたが、年長児ではわざと「足場」を外す対応も考えられます。

「昨日の〈遊び〉を教えてくれる人?」
「昨日の〈園庭遊び〉、〈覚えて〉いる人?」
「〈昨日のこと〉、話せる人?」

といった少し抽象度の高いを言葉をわざと用いる場合もあります。

このようなスキルは「足場外し(fading)」と言います。

「昨日は何をして遊びましたか?」

たったこれだけの質問ですが、たくさんの配慮が詰まっていましたね。

でも、この質問にはまた別の秘密が隠されているんです。

それについては次回解説したいと思います。

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水野 正司

子育て応援クリエイター:「人によし!」「自分によし!」「世の中によし!」の【win-win-win】になる活動を創造しています。

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