講座31 2020年に読んだ本「私のベスト3」第3位
ウォルター・シャイデル『暴力と不平等の人類史』(東洋経済新報社)5400円
この本は「厚くて」「高い」ので図書館で借りました。買わなくてもいいように、ここでザっと紹介しちゃいますね。難しい本ですけど、子育てに必要な部分だけを書き出して紹介していきます。
2.平等化が進む「4つの時」
3.疫病の人類史
4.まとめ
1.自分の家の所得を知る
不平等っていうのは簡単にいうと「所得の格差」です。
みなさんのおうちの「年収」は、いくらですか?
平成30年の日本の平均所得は、ざっくり言うと「400~500万円」くらいです。
そして、このグラフを読む時に大事なところは、「平均以下の世帯が6割を超えている」というところです。
簡単にいうと「多くの人が平均以下」だということです。
ここで、「? なんかおかしいな?」と思える子を育てたいですね。
「平均」なのに「多くが平均以下」って、どういうこと?
そう思って欲しいところです。
大人のみなさんは分かりますよね。
「たくさんもらっている人がいる」ということです。
年収1000万以上、2000万以上、1億以上…という人がいるわけです。
これってどうでしょうか?
平等でしょうか?不平等でしょうか?
「儲かる人」と「儲からない人」が出るのは仕方ないのですが、あまり差が大きくなり過ぎるのは問題ですよね。
その格差を示す数値のひとつとが「ジニ係数」です。
この地図は世界各国のジニ係数を表しています。
ジニ係数は「 0~ 1」までの値 で、「0」は格差ゼロ、「1」は たった1人が集団のすべての所得を独占している状態を表します。
「社会騒乱多発の警戒ライン」は「0.4」と言われています。
地図中のセピア色、黄色、赤、濃い赤は「格差0.4以上」の国々です。
日本が気になりますよね。見てみましょう。
タテ軸がジニ係数、ヨコ軸は調査年です。
グラフは2012年までしかありませんが、厚労省は2017年の調査結果を次のように出しています。
再分配前「0.5594」 分配後「0 .3721」
「再分配前」というのは税金を引かなかったらということです。
税金を引かないと「0.5594」で「0.4」を超えてしまいますから暴動が起こっても不思議ではないレベルの格差になります。でも、実際は税金を引いているので「0.3721」に収まっているというわけです。
青色の濃い国ほど、たくさんの税金を引いて格差が出ないように工夫しているのがわかります。
税金は工夫のひとつです。
世界はもっといろんな工夫をして、「不平等」が大きくなり過ぎないように、やりくりしているんだということを、
子どもに教えたいですね。
そのきっかけとして、自分の家の所得がいくらなのかも、小学校高学年くらいになったら、教えていいと思います。
「自分の家」も「世界の状況」も知っておく
地球は小さくなっていますからね。
こういう「考え方」ができる子になって欲しいです。
2.平等化が進む「4つの時」
さて、本の紹介に戻ります。
こんな風に「不平等」は数値で表せるということです。
それを人類史という長い目で見て調べたのがこの本です。
これはヨーロッパを例にした「不平等」の歴史です。
紀元前から西暦2000年までをグラフ化したものです。
グラフが上にいくほど不平等です。下がれば平等化が進んだことになります。人類の歴史には「不平等の程度」に上がり下がりがあるというわけです。
そして、筆者は、次の4つが起きた時に「平等化が進む」と主張しています。
(1)戦争
(2)革命
(3)崩壊
(4)疫病
「戦争」の例で取り上げられている国が日本です。
グラフは日本の富裕層が第二次世界大戦によって減少したことを示しています。「極端な金持ち」が減ったわけですね。つまり、それまでは「極端な金持ち」がいたということです。
詳しいことは省略しますが、江戸時代はかなり平等だったようです。「極端な金持ち」が日本に登場したのは「開国」してからです。
ちょっとだけ本文から抜粋してみましょう。
1930年代には、富裕エリートがすっかり勢いに乗っていた。地主、株主、企業幹部が、経済発展から莫大な利益を手に入れた。株式所有は集中化を極め、豪勢な配当のおかげで大いに利益を上げた。企業幹部は大抵大株主でもあり、巨額の給与とボーナスを受け取った。低税率のおかげで所得は守られ、富の蓄積がたやすく進んでいった。(156ページ)
その勢いの「イケイケ」で第二次世界大戦に突入していったことが想像できます。当時のジニ係数は「0.45~0.65」ぐらいだと推察されています。
そして、敗戦によって「財閥解体」「労使関係の民主化」「農地改革」といったシステムの改変が行われました。
先程のグラフを文章化すると、そうなります。
そして、現在まで「0.4以下」が保たれいるわけです。ちなみに、現在の日本のジニ係数は「0.339」です(調査年2015-2018年)。イメージで言うと「ギリギリ先進国」です。マラソンに例えると、「先頭集団の一番後ろ」といった感じですね。いつ離されてもおかしくない状況です。
そういう「今」も、子どもたちに伝えたいですね。
3.疫病の人類史
人類史で「平等化が進んだ」のは次の4つの時だというのが本書の内容です。
(1)戦争
(2)革命
(3)崩壊
(4)疫病
この中から「戦争」を例にとってザックリと解説しました。
そのほかは詳しく解説しません。
でも「疫病」が気になりますよね。
最後に、疫病についてちょっとだけ解説して終わります。
①疫病が流行ると人口が減少し、労働力が乏しくなります。
②労働力が不足すると、賃金が上がります。
③賃金が上がると、富裕層の財産が縮小し、平等化が進みます。
簡単にいうと、そういうことです。
「疫病で人口が減る?」
「労働力が不足する?」
「それホント?」
という感じになると思いますが、「人類史」というスケールで見ると、これは事実なんです。
14世紀に起きた大流行では、当時の世界人口4億5000万人の22%にあたる1億人が死亡したと推計されている。ペスト菌 ウィキペディア(Wikipedia)
ペスト(黒死病)の時の記録です。
当時の様子を描写した部分を要約します。(381~383ページ)
最初はひどい高熱に苦しんだ。この時、攻撃されるのは頭だ。別のケースでは肺を襲った。すぐに体内で炎症が起き、胸に鋭い痛み。吐き出される痰は血だらけで、吐息は吐き気がするほど臭い。のどと舌は熱のせいで乾ききっており、黒くうっ血している。腕に膿でき、人によってはあごや他の部位にもできている。黒い水ぶくれもある。それが破れると、悪臭を放つ大量の膿が流れてた。回復の見込みはなかった。絶望に直面することで衰弱に拍車がかかり、病状はひどく悪化し、感染者はあっという間に亡くなった。死亡率はほぼ100%だった。
父は子を見捨て、妻は夫を見捨て、姉妹はお互いを見捨てた。この病は呼吸や視線を介して伝染するように思えたからだ。家族や友情のために死者を埋葬してるしてくれるものは見つからなかった。死者が出た家の者は遺体を溝まで運ぶだけで精一杯だった。各地で深い穴が掘られ、多数の死者がその中に積み重ねられた。穴が満杯になると別の穴が掘られた。誰もが世界の終わりだと思った。
当時はペストの原因がわかりませんでした。
人々は様々なこと言い、「呼吸や視線を介して伝染する」という考え方も広がっていたことがわかります。
話はちょっとズレますが、そうした風評に終止符を打ったのが日本の北里柴三郎とフランスのアレクサンドル・エルサンです。
ペストを引き起こすのは、ネズミの消化管に住み着いているペスト菌で、生きた人間の間で感染することがわかった。(380ページ)
ちなみに、北里柴三郎は、2024年から発行される予定の1000円札に登場します(こんなことも子どもたちに知らせたいですね)。
4.まとめ
今回のお話は以上です。
これって要するに「歴史の勉強」ですよね。
みなさんは、「歴史」って何のために学ぶかご存知ですか?
「仮説実験授業」という勉強方法を提唱した板倉聖宜は次のように主張されていました(私の記憶です)。
歴史を学ぶのは「過去」を知ることによって「未来」を予想する選択肢が増えるからである。
地震や津波の言い伝えが各地に残っているのもそうですね。
記録は記憶より力があります。
未来の子孫に伝えることができます。
その「はじめの一歩」は、我が子に伝えることだと思って、今回の記事を書きました。