講座431 おとうさんにもらったやさしいうそ
第12回 日本語大賞 文部科学大臣賞 受賞作品
小学生の部
「おとうさんにもらったやさしいうそ」
佐藤 亘紀(さとう・こうき)
茨城県古河市立古河第二小学校一年
ぼくのこころにひびいたことばは、
「おとうさんはちょっと
とおいところで
しごとをすることになったから、
おかあさんと
げんきにすごしてね。」
です。
そのときぼくは二さいでした。
とても小さかったので
ちょくせついわれたのは
おぼえていませんが、
いってくれたときのどうがが
おかあさんのスマホに
いまでものこっているので、
すきなときにきくことができます。
このふつうにおもえることばが
ぼくのこころにひびいたりゆうは、
じつはこれがおとうさんがついた
うそだったからです。
このことばの一しゅうかんごに、
おとうさんははっけつびょうで
しんでしまいました。
そして、このことばを
おとうさんがのこしたのは
びょうきがわかって
にゅういんした日でした。
おとうさんは、あえないあいだに
ぼくがかなしまないように、
わざとうそをつきました。
うそはふつうよくないけど、
これは、おとうさんが
ぼくのためについてくれた
やさしいうそだとおもいます。
このことばをどうができくと、
おとうさんにあってみたくて
すこしかなしいきもちになります。
でもかなしいだけじゃなくて、
かなしませないように
うそをついてくれたおとうさんの
やさしさをおもって
「がんばろう!」
とおもえます。
おとうさんが
しんでしまったことは
しっているけど、
おとうさんのうそが
ほんとうになって、
いつかよるおそくにドアのまえで
「ドアをあけて。
かえってきたよ。」
といっているおとうさんに
あいたいです。
こうおもえるのも、
おとうさんのやさしいうその
おかげです。
ぼくからおとうさんに
つたえたいことがあります。
「おとうさん、うそがばれてるよ!
だってまわりにびょういんの
どうぐがいっぱいあるし、
おとうさんが
よこになっているし、
めからなみだがちょっとだけ
でているし、
こえがさびしそうだから。」
でもぼくは、
だまされているふりを
しつづけようとおもいます。
おとうさんがやさしいうそを
ついてくれたおかげで、
ぼくのこころは
つよくなれています。
これからもおとうさんのことばを
まもっておかあさんと
げんきにすごしたいです。
おとうさん、
やさしいうそをありがとう。