講座399 「スマホ育児」と「スマホネグレクト」の実態
5/31(水)Yahoo!ニュースにこんな記事がありました。
スマホに夢中で育児放棄
「スマホネグレクト」が子どもの発達に及ぼす影響
子育て世代4人に1人が兆候 (Yahoo!ニュース)
スマホネグレクトというのは、「親がスマホに夢中になるあまり、子どもを放置したり無視したりといったネグレクト(育児放棄)の状態に陥ってしまうことを指す造語」だそうです。
子育て中の親だってスマホは必要ですよね。
でも、気になるのは子どもへの影響です。
どんな時に使えばいいのか?
どんな時に使ってはイケナイのか?
そのあたりを解説したいと思うのですが、まずはその実態を確認していきましょう。
2.「スマホ育児」の実態
3.「スマホネグレクト」の実態
4.次回予告
1.「スマホ育児」と「スマホネグレクト」
「スマホと育児」を語る時に出て来る言葉を定義しておきましょう。
(1)スマホ育児:乳幼児にスマホを見せる育児
(2)スマホネグレクト:親が子どもを無視してスマホを使っている育児
「スマホ育児」というのは、スマホに子守りをさせる育児のことです。
赤ちゃんが泣いてうるさいのでスマホを与えてYouTubeを見せるといった育児です。
一方、「スマホネグレクト」というのは、親がスマホに夢中になって育児が放棄されることを言います。
この二つの実態がどうなっているのかをみていきましょう。
もとにするのは東京大学の論文「育児と ICT―乳幼児のスマホ依存、育児中のデジタル機器利用」です。
2.「スマホ育児」の実態
0歳児にスマホを与える「スマホ育児」は約35%です。
0歳児には「触らせていない」が約60%です。
「触らせていない」ってどういうことでしょう?
私は0歳児の孫に自分のスマホを触らせていました。
触りたがるのです。
ケースの中に入ってる名刺やカードを引き抜いてから、画面のタップしたりスワイプしたりしていました。
YouTubeを見たりするのではなく、本当に「触るだけ」です。
これは35%の中に入るのでしょうか?
調査の質問を見てみましょう。
質問:「あなたがお子さんに見せたり、使わせたりしている情報機器」
私の場合は、動画を「見せたり」、アプリを「使わせたり」しているわけではありません。
どうやら私は「触らせていない」に入るようです。
この表をグラフにしたのが次です。
「触らせていない」がぐんぐん減って、1歳以上は約60~70%が使わせています。
ほとんどがスマートフォンですね。
【実態1】1歳以上の6~7割が「スマホ育児」をしている。
では、どんな内容を見ているのでしょう?
【実態2】ほとんどがYouTube
7~8割がYouTubeですね。
「アンパンマン」や「ドラえもん」などの子ども向け番組を見せている人が多いそうです。
3歳からはゲームアプリも増えますね。
0歳では「英語教育のための動画や音楽」が多いというのが興味深いです。
どんなことを期待して見させているのかを見てみましょう。
期待は大きく二つに分かれているようです。
【実態3】
「子守り代わり・静かにさせるため」という消極的な期待
「勉強になる(情報教育や英語教育)」という積極的な期待
では、実際にどんな場面で見させているのでしょう?
【実態4】スマホを与える場面
(1)なだめるため(約40~70%)
(2)静かにすごさせるため(約40~60%)
(3)自分が食事するため(約10%)
(4)公共の場で静かにさせるため(約30~60%)
(5)自分が家事をする時(約50%)
(6)寝かしつけの時(約10%)
次は親の年収です。
有意差があるのは2箇所です。
【実態5】
①年収1000万円以上の家庭ではスマホを与えることが少ない
②年収1000万円以上の家庭では「触らせていいない」が多い
「スマホを触らせていない家庭」はお金持ちに多いということですね。
使わせていたとしても、それはきっと英語教育に関することだと推測できます。
逆に、年収が低いと生活に余裕がなくなり「スマホ育児」になる傾向が高いということでしょう。
でも、興味深いのは次のことです。
【実態6】多くの親は「悪影響」を心配しながら使わせている
こうした悪影響についてはまだはっきりとした結果が得られていません。
しかし、多くの医師が警告を出しています。
では、実際に悪影響はあったのか?
「スマホ育児」をしている母親へのアンケート結果です。
「すぐに使いたがる」ようになると答えた母親は約55%です。
これはありますよね。
同時に「やめない」「取り上げると機嫌が悪くなる」も想像できます。
【実態7】4~5割近くの乳幼児がスマホに依存傾向を示す
わかります。
そうなっちゃうんですよね。
でも、母親には与えてしまう理由があるのです。
それは【実態4】から分かります。
【実態4】スマホを与える場面
(1)なだめるため(約40~70%)
(2)静かにすごさせるため(約40~60%)
(3)自分が食事するため(約10%)
(4)公共の場で静かにさせるため(約30~60%)
(5)自分が家事をする時(約50%)
(6)寝かしつけの時(約10%)
これらの場面の背後にあるのは「ストレス」です。
そうしないと「泣きやまない」「家事や食事ができない」「寝ない」ということです。
そこでこの調査では母親のストレスを測定しています。
これは「スマホ育児」をしていない母親との比較です。
その結果がこの表なのですが、要するに次のことが判明結果です。
【実態8】「スマホ育児をしている母親」は「スマホ育児をしていない母親」よりストレスが高い
具体的には次のようなストレスです。
【実態9】子どもに対してストレスを感じている母親が「スマホ育児」をする傾向にある
①「うちの子は手がかかる」
②「うちの子は離れない」
③「うちの子は喜ばない」
【実態10】自分に対してストレスを感じている母親が「スマホ育児」をする傾向にある
①「やりたいことがほとんど出来ない」
②「まわりの人がサポートしてくれない」
③「以前のように物事を楽しめない」
最後に、母親と乳幼児の依存度の相関関係を見てみましょう。
全体でも年齢ごとでも、有意を示しています。
すなわち、母親のスマホ依存傾向度が高ければ、その子の依存傾向度も高いことです。
【実態11】乳幼児の依存傾向度は母親の依存傾向度に相関する
3.「スマホネグレクト」の実態
次は「スマホネグレクト」の実態です。
「スマホネグレクト」とはメディアによる造語ですので本当のネグレクト(育児放棄)とは違います。
欧米には「PSD(Parent screen distraction:スマホによる気晴らし)」という概念があります。
私は「スマホネグレクト」よりも、この「PSD(スマホによる気晴らし)」の方が多くの実態に合っているように思います。
東大の調査でもこの「PSD」という言葉を使っているので、ここでは「PSD」という言葉で解説していきます。
調査では、母親がスマホを使うであろう場面を次の6つに想定しています。
①自宅での食事時間
②外食時
③電車やバスなど公共の場
④公園など外遊びの時間
⑤自宅での遊び時間
⑥授乳中
【実態12】約7割の母親が授乳中にスマホを見ている(0歳児)
【実態13】約4~5割の母親が「電車やバスなど公共の場」でスマホを見ている
【実態14】約6割の母親が自宅で子どもが遊んでいる時ににスマホを見ている
こうした時に「PSD(気晴らし)」として見ているわけです。
PSDをもっと細かく見ていきましょう。
この表から次のことがわかります。
【実態15】食事中にスマホを取り出して見てしまう母親は約6割
【実態16】子どもと顔を合わせている時にも送信してしまう母親は約6割
【実態17】子どもと話している時に通知が来たら確認してしまう母親は約7割
【実態18】子どもを遊ばせている時に操作で注意が散漫になってしまう母親は約7割
【実態19】操作中に子どもが怪我をしてしまいそうになったことがある母親は約2割
【実態20】PSDは子どもが1歳を過ぎた時に増加している
「気晴らし」にスマホを見てしまう母親はこれだけ存在しているわけです。
問題はこの「PSD(気晴らし)」が「スマホネグレクト」にならないかどうかでしょう。
その境目には母親の「罪悪感」があるようです。
【実態21】子どもの前でLINEやSNSを使うことにためらいがある母親は約5割
【実態22】子どもの目の前でスマホを使うことに罪悪感を感じる母親は約6割
【実態23】年収が低い家庭の母親ほど「ためらい」や「罪悪感」を感じる割合は低く、年収が高い家庭の母親ほど「ためらい」や「罪悪感」を感じる割合が高い
母親の学歴からも同様のことが言えます。
【実態24】学歴が低い母親ほど「ためらい」や「罪悪感」を感じる割合は低く、年収が高い母親ほど「ためらい」や「罪悪感」を感じる割合が高い
4.次回予告
以上が、東京大学の論文「育児と ICT―乳幼児のスマホ依存、育児中のデジタル機器利用」でわかったことです。
次回はこの実態に対する私の考え方やアドバイスについて書きたいと思います。
統計データがあるのですね。
固定電話がないご家庭が多くなってきていますね。いつスマホを使うか悩むところです。