講座375 黄金の三日間には「過剰適応」をさせない
今回は「発達障害」を持つお子さんが新年度へ向かう時の注意点を解説します。
2.過剰適応を予防する4つのポイント
3.教師向け解説動画
1.「スタートダッシュ」に気をつけよう!
発達障害のお子さんは4月に過剰適応を起こす可能性があります。
過剰適応というのは、「限度を超えて頑張ってしまう状態」です。
発達障害の子の多くは、ただでさえ、みんなと合わせるために毎日頑張っています。
ここで言う「頑張っている」というのは、「みんなより頑張っている」という意味です。
普段から「みんなより頑張っている」わけですから、4月はより一層頑張ってしまう危険性があります。
頑張り過ぎるとどうなるか?
疲れる
これです。
この「疲れ」も一般の人が感じる疲れとは少し違います。
満足した疲れならいいのですが、そうではない場合が少なくないのです。
①みんなに合わせるのが精一杯で疲れる
②新しい環境に慣れなくて疲れる
③失敗が重なって疲れる
こんな感じです。
考えてもみてください。
学校の指導計画は何から何まで「標準仕様」なのです。
IQ100くらいの子に合わせた計画が立てられ、IQ100くらいの子に合わせたやり方で先生が授業をし、IQ100くらいの子に合わせて作られたテストに取り組み、評価される。そして、人数的に多いのがIQ100前後の子どもたち
学校とはそういう世界です。
学年が上がっても、待っているのは「そういう世界」です。
そして、発達障害を抱えた子どもたちは、素直ですから、その世界で「今度こそ頑張ろう」とします。
張り切って、希望を持って臨むわけです。
最初の三日間くらいはなんとかなるかも知れません。
でも、新しい環境で、みんなより精一杯努力して、うまくいかなくてもまた頑張る。
そういう三日間を過ごしたらどうなると思いますか?
疲れますよね。
これを信州大学の本田秀夫教授はこれを「スタートダッシュ」と命名されました。
スタートダッシュによる過剰適応は大人の発達障害の方にも起こります。
特に、前に失敗した経験がある人ほど「(職場で)今度は頑張ろう」と思います。
その時点で危険信号なのです。
環境調整が必要です。
自分で出来ない場合には周りが調整してあげなければいけません。
2.過剰適応を予防する4つのポイント
ですから、最初の三日間で注意すべきなのは次のようなことです。
(1)すでに頑張っていると考えて、ほめる。
たとえば、ASDの子は新しい教室で席に着いているだけで頑張っているかも知れません。
「席に座っているだけ」というのは、多くの子にとっては何でもないことかも知れませんが、ASDの子にとっては力を振り絞ってそこに座っている場合があります。
そんな時、どんな風に声をかけますか?
「えらいね。席に座れたね」というのはありでしょう。
「すごいね。無理しなくてもいいからね。休みたくなったらお散歩に行ってもいいからね」
そうなんです。席に座っているのは休んでるわけではないのです。頑張っているのです。
(2)無理に頑張らせない。
新しい環境、新しい先生、新しい友達…。新しいだらけで地獄のような日々です。
そこへ持って来て、無理難題を要求する。
たとえば、「6年生になったんだから忘れ物ゼロを目指す!」とか、「授業中の私語をなくす!」とか、ADHDの子が苦手とするようなハードルの課題を出されるとどうなるか?
当然、ADHDの子は頑張りますよ。
でも、「頭ではわかっているけどできない」というのがADHDの特性ですから、結果どうなるか?
新しい学年こそと張り切った気持ち → またできなかったという気持ち
それが続いたらどうなりますか?
疲れ、自己否定、不登校、他害、二次障害。
暗い未来に襲われ始めます。
ですから、次のように声をかけます。
「大丈夫!大丈夫!本当はやればできるんだから!今はやらなくてもいいよ!今度やってね!」
「無理しなくていいよ!」と言いたいところですが、それだと侮辱されたとか、「ボクが出来ないからだ」などとネガティブに受け取られる可能性があるので使いません。
もっとダメなのは「やればできる!」と言って無理をさせることです。
「やればできる!」ではなく、「やればできるんだから!」が適した対応です。
(3)大事なのは「調整」
子どもたちは既に頑張っているのですから、
教師は、その気持ちを満たしてあげられる(成功体験に導く)活動や授業を準備することです。
三日のうちにです。
三日連続です。
そうなれば子どもたちの表情は輝くでしょう。
それが「黄金の三日間」です。
(4)過剰適応を予防する声かけ
発達障害の子の中には「一回できたらもう飽きちゃってやらない」という子がいます。
でも、他の子どもたちは二回目、三回目と活動に取り組んでいます。
そんな時に、どうしますか?
「ちゃんとやりなさい!」と言いますか?
「やれるんだから、やりなさい!」と言いますか?
これが違うんです。
「同じことを二回やるのはかなりの苦痛なのだ」という理解が必要です。
ですから、こんな時にも「やればできる!」なんで声をかけてはいけません。
「A君はやればできるからもう大丈夫だね。工夫して新しいことに挑戦してごらん!」
そんな指示でいいのです。
こういうのが個別最適化です。
挨拶が苦手なASDのB君がいます。
頑張ればなんとか挨拶はできます。
でもそれを毎日強引に求めるのではなく、
「B君はもう挨拶ができるんだから普段はやらなくてもいいよ。やりたい気持ちになった時にお願いね」
といった感じで安心させます。
こういう配慮「三日間」のうちにしておくと学校は楽しくなりますね。
そして、保護者の方が気をつけるのは我が子の表情から学校が楽しいかどうかを読みとり、疲れがあるようだったら話を聞いてあげることです。
あとは早寝早起き、夜のブルーライトはなるべく浴びない。
3.教師向け解説動画
詳しくはこちらの動画をご覧ください。
ポジティブ・ノーリアクションが徹底できていなかったなと反省しました。
発達障がいの子が可愛くて、ついかまってしまっていた気がします。
発達障がいについて、もっと勉強し、正しい対応がとれるようにしていきたいです。
本の紹介もありがとうございます。
読みます。
かわいくてかまってあげるのはとってもいいことです。
ぜひ、たくさんかまってあげてください。
ポジティブノーリアクションは悪い行動が出た時だけでいいんです。
普段は使いません。