『学ぶ意欲の心理学』
解説:「やる気」を引き出すヒントが見つかる一冊
今回ご紹介するのは、市川伸一『学ぶ意欲の心理学』(PHP新書)です。折り目17カ所。
次のAとBで、どちらが有効な子育てかわかりますか?
A やさしい問題をたくさん与えて自信をつけさせる。
B やさしい問題と難しい問題の両方を与えて、間違えた時は努力不足のせいにする。
この問いに自信を持って答えられる人は「学ぶ意欲の育て方」を知っている人だと思います。自信のない方は次を読んでみてください。
学習成否の帰属理論(ワイナー)というのがあります。勉強でうまくいったり、つまずいたりした時に、原因をどこに求めるかという理論です。
原因を自分に向けるときは、「能力」か「努力」かのどちらかです。
原因を外に向けるときは、「課題の難しさ」か「運」かのどちらかです。
このとき問題となるのは「失敗した時の自分に対する評価」です。
親や先生が毎日やさしい問題ばかりを与えて自信をつけさせたとしても、テストや試験などでやさしい問題ばかり出るとは限りません。問題が解けなかった時、困難にぶつかった時に、その原因を自分のどこに向けるかかが決定的に重要なのです。Aで育った子は失敗した時の原因を能力(自分がダメだから)と考えがちになります。特に、勉強が苦手な子は、すでに自己肯定感が低いわけですから、失敗に弱い(自分がダメだから)と思う傾向が強く表れます。それに対し、Bで育った子は失敗の原因を「努力が足りないからだ」と考えるようになります。なぜなら、Bでは間違えた時の原因を「努力」として扱って育てているからです。ただし、その際に叱ることは有効ではありません。努力が足りなかっただけだよと励ますことが大切です。原因を能力に持って行かないことが大切なわけです。
このことを証明したのはドウェックという心理学者です。
成功経験群の子どもたちは、むずかしい問題にあたって失敗するとそれを能力に帰属し、すぐにやる気を失ってしまう。要するにやさしい問題を解いて一時的に自信をつけても、すぐにくじけてしまうのです。それに対して、努力帰属群の子どもたちは、失敗しても根気強く学習を続けるようになり、結果的にはより高い成績をおさめるようになったというのです。(40ページ)
したがって、冒頭の問いの答えはBです。
Aだと思った方は、子育てにおいて「自信をつけさせること」「ほめること」を大事にされている方だと思います。それはそれで大切なことです。
しかし、現実の世の中はやさしいことばかりではありません。つまずいた時に乗り越える強さ、たくましさも必要です。普通に生活していれば「失敗」や「つまずき」は自然と出会うものでしょう。年齢が上がれば上がるほど、そういう体験がついて回るはずです。そのときのことも考え、つまずいた時には大人が「励ますこと」が大切であることをこの本から学びました。
視点が少しずれますが、私は教師をしていたので、わざと難しい問題に出会わせるということをしてきました。そういう授業を「難問」の勉強と言います。子どもたちは「難問」が大好きでした。楽しいのです。難しいから。出来ないのが前提なのでどの子も楽しいのです。「これができたらスゴイ!」とか、「こんなの出来るわけがない!」「大学生でも解けない!」などと言ってやらせます。おおいに盛り上がります。私はそういうことを師匠である向山洋一先生から学びました。