講座605 MTSS(多層型支援システム)

2.想定+個別の支援
3.MTSS(多層型支援システム)
PBS(ポジティブ行動支援)

1.「お手本」という視覚支援
水遊びの前の〈服の準備〉を始める場面です。
担任のS先生がまず全体に話をします。
次の活動の説明です。
説明と言っても口で説明するだけではありません。
お手本になる子を前に呼びました。
その子に服の畳み方のお手本をやってもらうのです。
これだと具体的にわかります。
言葉だけの説明とは大違いです。
これを「視覚支援」とも言います。

2.想定+個別の支援
この説明でほとんどの子が動き出しました。
しかし、全員が動けるとは限りません。
教室を見回すと、まだ取りかかれないでいる子もいます。
みんなが服を畳み始めた中で、動けないでいる子がいました。
その時、サブのC先生が動きました。
その子の隣りへやって来て、助けてあげます。
C先生は、その子の服を畳み始めました。
「畳んであげるのかな?」と思っていると、その手を止めて、
途中まで畳んだ服をその子の前に差し出しました。
全部をやってあげるのではなく、続きを自分でやるように促したのです。
言葉はありません。
途中まで畳んだ服を目の前に提示しただけです。
これは「視覚支援」+「足場づくり」です。
仮の話ですが、全体への指示でその子が行動できなかったのは、〈何をしたらいいのか〉が伝わっていなかった可能性があります。
思い出してください。
全体へ説明したS先生は、お手本になる子を前に出して、実際にやり方を見せてくれました。
これ以上はないくらい具体的な説明です。
しかし、それでも〈伝わっていない子がいるかもしれない〉と考えるわけです。
どうしてそう考える必要があるのか。
幼児の言語能力は発達の途中です。
また、幼児期という期間がそういう時期であることに加え、個人差もあります。
どんなに配慮をしても、全体行動に遅れる子が出るのは自然なことです。
そこで、「チームワーク」です。
全体を動かす先生と、個別に支援先生する先生のチームワークです。
この場合のC先生の動きを「個別の支援」と言います。

3.MTSS(多層型支援システム)

海外の学校では、MTSS(多層型支援システム)という考え方が広がっています。
日本でも一部の地域で取り入れている園や学校があります。
私なりの解釈になりますが、この「MTSS」は次のようなシステムです。
全体へは「質の高い全体指導」をします。
これによって8割の子は大丈夫です。
しかし、「質の高い全体指導」であっても、支援を必要とする子は2割程度存在するだろうと考えます。
そこで、全体指導と並行して、その子たちに個別の支援をします。
全体が動いている中で支援をするのです。
その支援は、全体を動かしている先生が一人で行う場合もありますし、サブの先生が行う場合もあります。
この支援によって救われる子を15%くらいだろうと想定します。
しかし、学校や園の中には、そうした配慮をしても救い切れない子が5%ほど存在する場合があります。
そうした子には「取り出し」と言って、〈1対1〉による支援をどこか他の場面で実施して〈発達〉を支援する必要があると考えます。
Tier 1(ティア・ワン):「すべての子ども対象にした質の高い指導」であっても80%と考える。
Tier 2(ティア・ツー):「個別の配慮と支援」を全体を動かしつつ行う中で15%の子は救うことができる。
Tier 3(ティア・スリー):それでも救い切れない5%の子には別途1対1の「取り出し支援」を用意してあげる。
子供たちを、この三つの層に分けて支援をする仕組みが「MTSS(多層型支援システム)」です。
そして、その実践の両輪となるのが「SEL(社会性と情動の学習)」と「PBS(ポジティブ行動支援)」です。
今回の事例に当てはめてみましょう。
まず、S先生はお手本の子を使って分かりやすく説明していましたよね。
これが「Tier 1(質の高い全体指導)」です。
そして、同時進行でC先生が個別の支援に走りました。
これが「Tier 2(個別の支援)」です。
そして、この時のC先生の支援は〈子供を否定する行為〉ではありませんでした。
その子が集団の中で目立たないように、無言で、支援されていました。
しかも、途中まで畳んだ服をその子の前に差し出しました。
〈これで分かるはず〉&〈この先はできるはず〉という予測支援です。
「何やってるの!早くしなさい!」といった否定的な対応とは真逆です。
このような肯定的予測的な対応が「PBS(ポジティブ行動支援)」です。
できないでいる子や遅れている子を〈ダメな子〉だとネガティブに見ていませんよね。
それが「PBS(ポジティブ行動支援)」です。

4.PBS(ポジティブ行動支援)
その続きを解説します。
C先生の支援によって、その子は服を畳むことができました。
次は、その服を自分の棚の中へしまう必要があります。
みんなから遅れてしまったその子は間に合うのでしょうか?
この時も、C先生は視覚支援をされました。
単に「しまってきてね!」と言葉だけで指示するのではなく、その子の棚の方に指をさしながら「しまってきてね!」と指示をしました。
これは、〈言葉〉+〈ジェスチャー〉です。
〈言葉〉+〈ジェスチャー〉の時には、〈言葉が短い〉という配慮が重要になります。
言葉が長いと、頭が混乱して不機嫌になったり、フリーズしてしまったりすることがあるのです。
視覚情報が優位な子にとっては、〈ジェスチャーだけで伝わる〉ということがあります。
この〈ジェスチャーだけで伝わる〉という状況が成立している時に、長い言葉が音声情報として入って来ると、その刺激(情報)が邪魔になってしまうことがあります。
せっかく、ジェスチャーによって先生の指示の意味を理解して動き出そうとしている状況に水を差してしまうので、「混乱」「不機嫌」「フリーズ」などが起きるわけです。
ですから、「しまってきてね!」+〈指さし〉という、C先生のシンプルな支援はとても理想的です。
実際、その子はちゃんと行動することができました。
この場面も、まさしく「PBS(ポジティブ行動支援)」です。
そして、その時、C先生はその子に向けて〈OKサイン〉を出しました。
その子の表情はちょっとニッコリしたように見えました。








