講座571 幼稚園の朝のお迎えシステムから学ぶ

園児たちが登園する姿を見て来ました!
朝8時半、門の前に園長先生と担任の先生が立っています。
車で登園する子もいれば、保護者の方と手をつないで歩いて登園して来る子もいます。
園児が門の前まで来ると先生方が園児に挨拶をします。
「おはよう!」なんていう〝友だち言葉〟ではありません。
先生は「おはようございます」という丁寧な言葉で挨拶をされました。
しかも、体の動きを一旦止めて、園児を見て、お辞儀をされています。
いやあ。素晴らしいですね。
園児の挨拶が多少下手でも指導なんてしません。
あくまでも〈大人がお手本を示す〉という保育観です。

さあ!続々と園児を乗せた車がやって来ました。
車が来たら園児がどこに乗っているかを見抜き、ドアを開けてあげたり、運転して来たお父さんやお母さんから荷物を受け取ったり、チームプレーで素早く対応します。
こうすることで保護者の方は車から降りずに済みます。
何しろ次々とやって来ますからね。
そしてもちろんコミュニケーションも欠かしません。
園児の体調や必要な連絡を数秒のうちに受け取ります。
私が参観したのは4月です。
お母さんと離れたくないので号泣する園児もいます。
そんな子がいた場合は先生が抱っこしてあげて園児をなだめます。

そして、このお迎え場面がスゴイのは先生方の対応だけではないのです。
門の前には年長園児が3名ほど立っています。
お迎えボランティアの子どもたちです。
先生方の対応が済むと、登園して来た下のクラスの子どもと手をつないで玄関や教室まで連れて行ってくれるのです。
この年長さんたちのチームプレーも先生方並みです。
その場の状況やその子の性格などを見取って対応するのです!
一人の園児に対して、右と左から手をつないで連れて行ったり、玄関に直行出来そうもない子には途中でコミュニケーションを取りながら対応したり、その対応はまるで「支援」です。
多分ですけど、このような異年齢の関わりは日本の幼稚園ならではの姿なのではないでしょうか。
世界で高い評価を得て話題になった山崎エマ監督の映画『小学校〜それは小さな社会〜』を思い出しました。

それはさておき、この場面を深掘りしてみましょう。
お迎えボランティアの年長児たちの様子を見ると、誇りを持ってやっているように思えました。
先生方も明らかに年長児たちを頼っています。
年長児たちがいなければ成り立たないシステムです。
しかし、そこに発達心理学のレンズを当てると、子どもの成長にとって重要なキーワードが浮上します。
そのキーワードとは「向社会的行動力」です。
「向社会的行動力」というのは、「他者に利益をもたらす意図に基づく自発的行動」を意味する心理学用語です。
簡単に言うと「見返りを期待しない助け合いの行動」です。
身近な言葉で表すなら「親切」ですね。
「親切」という言葉は、私たちにとって身近過ぎて普通に使っていますが、実は奥が深い言葉なんです。
その原理は〈地位やお金がなくても誰でもできる〉という点にあって、それがまさに「向社会的行動力」ということなのです。

今、世界情勢は混沌としています。
人類にとって、民主主義社会の方が幸せなのか、権威主義社会方が幸せなのかは明確には分かりません。
ただし、どちらにしても資本主義経済によって生活している国がほとんどです。
しかし、この「資本主義経済」が人類にとっての〈正解〉かどうかも〝只今実験中〟です。
何が正解かはわからない世の中だから「混沌」としているわけですが、〈ほぼわかっていること〉があります。
それは、〈私たちの生活の中には損得だけでは計算できない部分がある〉ということです。
違う言葉で言いますと〈掛け値なしの助け合いが無ければ世の中はうまく回らない〉ということです。
そして、人間にはもともの「向社会的行動力」が備わっているということも科学的にわかって来ています。
京都大学の森口佑介博士は「向社会的行動力」の発達順序を次のように示しています。
①家族に対する親切
②友人知人に対する親切
③まったく見知らぬ人への親切
④世の中に対する親切
こんな風に、子どもは〈親切の対象を広げて成長する〉というわけです。
そして、その過程では〈こういう場合には親切にしなくていい〉という社会性まで学びます。
「親切」って奥が深いのです。

て、そろそろ話をまとめます。
この幼稚園における「お迎えボランティア」はどのような意味があるのか。
「向社会的行動力」の発達には〈順序〉の他に次の〈原則〉もあります。
それは、「内発から外発へ」という原理です。
向社会的行動は「他者に利益をもたらす」結果が重要なのではありません。
「意図に基づく自発的行動」という点が重要なのです。
つまり、誰かにほめられるから親切にするのではなく、自分が嬉しいから親切にする。
それが向社会的行動力の原点(内発)です。
そして、子どもは、年齢とともに様々な経験によって、「誰に対して親切にすべきか(外発)」を学んでいく。
そうやって自分の向社会的行動力をアップデートしていくわけです。
この幼稚園における「お迎えボランティア」では〈自分より下の子に対してサポートしてあげる〉という社会性を発達させています。
朝のお迎えがそういう機会になっているということです。
幼児教育における環境設定ですね。
たかが「お迎え」されど「お迎え」!
幼稚園には発見がたくさんあります!



