講座542 ロボットが出産をする世の中?

2.「男らしさ競争」とは
3.現代社会のカッコよさ
4.ホモサピエンスの強さ

1.代理出産で「男らしさ競争」はなくなる?
今度はロボットが「代理出産」まで…中国企業「1年以内に発売」(出典:中央日報2025.08.12)
中国のロボット企業が、世界初の「代理出産ロボット」を1年以内に開発・発売すると発表した。
マジか!
この記事は、御田寺圭氏の白饅頭日誌「人工子宮は少子化対策にはならないが、男性の解放にはなる」で紹介されていたものだ。
御田寺氏のこの記事は有料なので、ごく簡単にだけ紹介すると、代理出産のような技術が実用化されると世の中の男性が「男らしさ競争」から解放されるのではないだろうか……点々々といった内容である。
今回はこれを読んで思ったことを書いておきたい。

2.「男らしさ競争」とは
私は御田寺氏のこの記事の内容と似たようなことを前から考えていた。
次のようなことである。
(1)すべての生物が普遍的に備えている能力は何か?
答えは本能。
(2)すべての生物に共通する本能は何か?
「個体保存の本能」と「種の保存の本能」。
この2つの本能が38億年前から普遍的に続いている。
(3)「種の保存の本能」の具体とは?
生物学的に《メスは「強い」オスに惹かれる》という本能を持つ。
これを「優位個体選択」という。
これは、魚類、爬虫類、鳥類、哺乳類などに共通してみられる本能である。
(4)「優位個体選択」の具体とは?
ヒト以外の場合、メスは「体力や健康」によってオスを選択する。
体が大きくて力があるなどである。
多くの動物は、この本能によって種の保存・進化・繁栄を果たしている。
オスの立場から言えば、種の保存・進化・繁栄のために、いくつかの意味で「強く」あろうとする仕組みである。
しかし、ヒトの場合はこの「強さ」の中身が他の動物とは違っている。
「体力や健康」という身体的な能力だけではなく、「お金」や「地位」や「名声」などが求められる。
このような男性を求める生物学的な働きが「男らしさ競争」である。

3.現代社会のカッコよさ
しかし、現代社会では、こうした「男らしさ」が変化しているように感じられる。
「体力や健康」「お金」「地位」「名声」などとは別に「人間的魅力」というものが求められているのではないだろうか。
(5)「人間的魅力」の具体とは?
「お金」や「地位」や「名声」はマズローの欲求段階説で言うと《他者から価値ある存在と認められたい》という「承認欲求」を実現した人ということになる。
《人は現状に満足せずに一つ上の幸せを求める》というのが欲求段階説の基本原理なので、第4段階である「承認欲求」よりも、第5段階にある「自己実現欲求」を満たした人が「幸せ」ということになる。
ということは、社会が成熟するにしたがって、「お金」や「地位」や「名声」よりも「自己実現」を成功させた人が「幸せ」であり、《カッコいい》ということになる。
今の日本における「男らしさ」とは、既に「お金」や「地位」や「名声」ではなく、「自己実現」にシフトしているのではないだろうか。
自分の力を最大限に発揮し、自分の夢に向かって、自分らしく生きている人、そして、その夢を実現させているか、実現させつつある人が《モテる男》ということだ。
私は、その意味で「男らしさ競争」は悪くないと思う。

4.ホモサピエンスの強さ
マズローは晩年に欲求段階説を6段階にアップデートさせました。
6段階目は「自己超越の欲求」です。
これは《自己とか自分を超越したい》という欲求のことですが、
簡単に言うと《他人の幸せや共同体の幸せを願うこと》です。
これが「利他的欲求」ということです。
もしこれが生物学的にいう「優位個体選択の原理」の要素になるとすれば、これも悪くはないと思います。
マズローの欲求段階説は社会的動物としての人間を対象にした心理学の研究ですが、
対象になっている人間は20万年前から生存しているホモサピエンスです。
そこには間違いなく生物としての本能があります。
《他人の幸せや共同体の幸せを願うこと》が私たちの本能であり、生物学的な「男らしさ」だとしたら、ロボットが代理出産をしたとしても簡単には消えないでしょう。
逆に、《他人の幸せや共同体の幸せを願うこと》を失ってしまった人類は、過去に滅びてしまった人類と同様に滅亡の歴史を歩むかも知れません。





