講座541 子育てには正解がある!

2.子育てにも正解はある
3.幼児期の天敵
4.「子育てwin3計画」

1.芸には正解がある

先日、映画「国宝」を観て来ました。
吉沢亮も横浜流星も大河で観ていて私はファンです。
3時間の映画ですが、あっという間でした。
この映画の舞台あいさつで、吉沢は観客から次の質問を受けています。
歌舞伎役者と俳優はどちらのほうが大変か?
吉沢は「歌舞伎役者さんです」と即答。
その後の言葉が印象的でした。
僕たち役者は、普段はその職業の人間を演じるわけですが、そこには正解もないしそれぞれの見方によって、全然変わってきます。しかし、歌舞伎役者さんは、何百年と続いている芸には正解があるのだろうと思います。何度も演じられてきた演目を自分が演じるというその覚悟は、相当なものだろうと演じていて感じました。
なるほどなと思いました。
何百年と続いている芸には正解がある
言われてみれば、確かにそうです。
映画の中でも師匠は弟子に何度もダメ出しをしていました。
「駄目を出す」ということは、そこに正解があるということです。
何百年と続いて来たわけですから、《伝達が出来る》ということです。
そして、《再現ができる》。
芸と技術との違いは《言語化できない》という点でしょう。
これは子育ても同じだと気づきました。

2.子育てにも正解はある
私たちホモサピエンスの歴史は20万年続いています。
ホモサピエンスは、その20万年間ずっと子育てをして来たので今の私たちがいるわけです。
歌舞伎の誕生は1603年に出雲阿国が始めた「かぶき踊り」を起源だと言われています。
その歴史は400年くらいです。
「歌舞伎の正解」に比べたら、「子育ての正解」は遥かに精度が高いはずです。
不適切な子育ては淘汰されて残っていないはずですから、現在私たちが行っている子育ての大枠は「適切」であるはずです。
細かい所は、文化や国の違いがあるでしょう。
しかし、生物学的に見て、その大枠は「適切」だと考えていいのではないでしょうか。

3.「普遍的育児行動(ユニバーサル・ペアレンティング)」
では、その「大枠」とは何か。
人類に共通して見られる子育ての方法は6つあります。
文化や時代が異なってもほぼ例外なく観察される子育ての方法で「普遍的育児行動(Universal Parenting)」と呼ばれます。

1.抱っこって大事なんですね。
抱き上げる・抱きしめる・肌と肌の接触は情緒安定や愛着形成に不可欠で、ほぼすべての文化で行われています。
親の体温・心音・揺れが乳幼児に安心感を与えます。
最近私が思うのは、孫を抱っこすると孫はギュッと力を入れてこちらにしがみついて来る感覚を感じることです。
これが何とも言えず、私はついつい抱っこを繰り返してしまいます。
これはきっと20万年続いて来た生存戦略なんでしょうね。
2.授乳(母乳または代替乳)と離乳後の食事の世話も人類共通の行為です。
ただ、方法や期間は文化により異なります。

3.安全の確保も人類共通です。
危険から子供を守る行動(外敵・事故・有害物からの保護)は狩猟採集時代でも現代の都市生活でも必ず見られます。
赤ちゃんを寝かせる場所の選び方、火や水や高い所から遠ざける行動は文化を超えて行われます。
現代生活なら子供を狙った犯罪からも守る必要がありますね。
4.あやしも人類共通です。
泣き声や笑顔に反応してあやす、声をかける、表情で応えるなどの相互的コミュニケーションです。
子供はこのことによって情緒が安定し、言葉や社会性を発達させます。
5.生活習慣の形成も人類共通です。
言葉やルールや生活習慣を伝えることは農耕社会でも狩猟採集社会でも共通して行われて来ました。
ただ、時代や文化によって「共同体で育てる」か「親中心で育てる」かに差があります。
今の日本は「親中心」ですよね。
でも、少し前までは《地域全体で育てるもの》という考え方が一般的でした。
苗字がなく「○○村の○助」などと呼ばれていたのはそうした考え方から来ています。
これは私の個人的な希望ですが、これからの日本は《子供は社会全体で育てるもの》という考え方に戻った方がいいと思います。
今、私の娘は生後1か月の乳児と3歳の幼児を育てていますが、「洗濯を1回するのに3時間もかかった」と話していました。
夫は仕事に出ていますし、そうなると家の中のことは母親一人になります。
しかも母親は産褥期です。
乳児は泣くし、幼児は「遊んで」と言うし、洗濯を1回済ますのもままなりません。
家電機器が便利になった現代でも、こうした実態はあるのです。
子育ては一人でするものではないと確信します。
ですから、祖父母、地域、行政などのサポートは不可欠です。
そのサポートとは「お金」だけではなく「システム」であるべきです。
そう考えて様々活動しているのですが、道半ばです。
6.模倣というのは、大人や年長者の行動を見せて、真似ができる機会を与えることです。
日常の作業を通じて文化や技能を学ばせることは文字のない時代から行われて来ました。
要するに《大人がお手本を見せる》という育て方です。
日本は、この「お手本文化」が優れた国です。
「写す」というのもそうですし、「真似る」というのもそうです。
私の師匠の向山洋一は「写すのもお勉強のうちです」というフレーズを普及させていますが、
それとは反対に「写すなんてトンデモナイ!自分で考えなさい!」という考え方を強要する教育者もいます。
どちらがトンデモナイのでしょうね。
江戸時代には、勉強以外でも《大人がお手本を見せる》という育て方が一般的でした。
それは職業教育にも言えます。
江戸時代の子供たちは自由に町中に出て遊び回り、大人の仕事現場に入ってその様子を見ることが許されていたそうです。
ですからいろんな職業の様子を見て、その身体性を視覚的に学び、情報を得ていたのです。
それに比べると現代の日本の子供たちは《親がどんな仕事をしているのかも見たことがない》という環境が普通です。
《大人が働いている場を見せる》という教育はとても重要だと思います。
ということで、かなり脱線しましたが、「普遍的育児行動(Universal Parenting)」について解説しました。


4.「子育てwin3計画」
現在の「普遍的育児行動(Universal Parenting)」はホモサピエンスが20万年間ずっと続けて来た「適切な子育ての仕方の結果」だと思います。
これから先もこの子育てが「適切」であり続けるかどうかはわかりません。
しかし、「20万年」というスケールはかなり長いので、100年や200年は続くのではないでしょうか。
ただ、AIの発達や地球環境の変化などで短期間のうちに激変する可能性はあります。
ですから、これらのスキルも私の中では一応「基本」です。
また、時代だけではなく、個人によって環境や状況は様々です。
ですから「子育てに正解はない」という言葉があるのでしょう。
しかし、私は敢えてそこに異を唱えています。
だって「正解」がないと不安じゃないですか。
そこで考えたのが「子に良し!親に良し!世の中に良し!」という言葉です。
近江商人の「三方よし」から考えた言葉ですが、私はこれこそ人類普遍の「正解」の基準だと思います。
たとえ時代が変わっても、「20万年のスケール」に負けない普遍的な基準です。
《参考文献》
「子育てにおける異文化間の類似点と相違点」(2021)
「すべての子どもに焦点を当てる」:スウェーデンにおけるランダム化比較試験における6ヶ月間の追跡調査におけるユニバーサル子育てプログラムの効果(2024)



