講座573 「待たない」ピア・モデリング
園児たちがホールで活動しているところへお邪魔して来ました。
ちょうど活動が終わって教室に戻るところタイミングでした。
先生が子どもたちを2列に並ばせます。
みんな並んで教室に戻るのですね。

でも、なかなか活動を終われずにホールの中を走っている子もいます。
マイペースで夢中なんでしょうね。
さあ、こんな時、先生はどうするのでしょうか?
皆さんなら、どうすると思います?
大きな声で「もどりますよ! 並んでください!」なんて言うんじゃないでしょうか。

でも、この時の先生は違いました。
ほとんどの子が並んだ時点で、さっさと歩きだしてしまいました。
「えっ? それでいいの?」って思いませんか?
「全員がきちんと並んでから移動するんじゃないの?」って思いますよね。

でも、違うんです。
これは「待たない」というスキルなんです。
教育心理学では「peer modeling(ピア・モデリング)」と言います。
どういうスキルかと言いますと、先生が言葉で説明しなくても、子どもは周囲を見て、
「みんな靴を履いている」
「みんな並び始めた」
「みんな先生の方を向いた」
「みんな片づけている」
と理解し、自分もその行動に移ることがあるという考え方に基づいて、
「みんな」を先に動かせることで、遅れている子に「気づかせる」という支援をするわけです。

こうすることによって、
「みんな」は遅れている子を待たずに済みます。
幼児にとって「待つ」というのは退屈な時間です。
幼児と大人では時間感覚が異なるので、少しの時間でも長く感じます(5倍くらいとも言われています)。
その退屈を生み出さずに、遅れている子にも支援をする。
これが「peer modeling(ピア・モデリング)」のメリットです。

子どもの頃にこんな経験はありませんか?
先生が「みんなが揃うまで待ちましょう」と言うので、
「アイツのせいで待たされた!」なんて思ってしまうこと!
この「待たない」というスキルは、そういう嫌な雰囲気を作らずに、全体の活動をスムーズに運ばせる効果があるのです。

さて、みんなが移動を始めた後の「遅れた子」はどうなったでしょうか?
最初はホールを走り回っていましたが、もう一人の先生が声をかけてくれたので、
みんなの方を自分の目で見ました。
ここでみんなの動きに気づいたのです。
これは補助に入っている先生と担任の先生との連携プレー(役割分担)なのです。

今、幼稚園や学校には「支援」のために複数の先生が入って集団に対応することが多くなっています。
この場合はメインの先生と補助の先生との連携がとても大切です。
その連携のためには、相手の先生の意図を見抜いて、さっと支援する。
補助の先生はそういう役割を担当しているわけです。
子どもたちを教室に戻すというだけでも、このように隠されたスキルが使われているのですね。



