講座519 受賞しました!
2.向山洋一教育賞とは
3.問題提起
4.出前授業「赤ちゃん学」4000人突破!
2024年12月8日、日本教育技術学会(東京大会)にて第3回向山洋一教育賞の最先端実践賞をいただきました。
ダイジェスト動画はこちらです。
受賞した論文はこちらです。
1.日本教育技術学会とは
日本教育技術学会というのは「教育技術の発掘・創造を期し会員相互の研究上の連絡・協力を促進することを目的」として設立された一般社団法人です。
初代会長の宇佐美 寛氏は「設立にあたって」次のように述べています。
研究・実践のこのような相互関係が欠けたところでは、研究も実践も堕落する。研究は内容空疎な虚飾にすぎなくなり、実践は方向の意識無き泥酔の状態になる。従来の学界における教育内容・教育方法の研究はどうであったか。右のような実践との緊張関係の自覚が甚だ微弱であった。その研究が、どこで、どのように実践と関わるのかが全く不明な研究が圧倒的に多かった。出典:「創立にあたって」1987年11月5日 宇佐美 寛
私の感覚になりますが、研究者の研究と学校現場における実践の間には大きな隔たりがあるように感じます。
簡単に言えば、研究者の研究論文には難解でとっつきづらく、一方で学校現場の実践は《気持ち主義的》で事実や技術が不在になっているものが多く見られます。
両者の間には格差があります。
その格差を埋める試みがこの学会の活動だと私は認識しています。
ですから、宇佐美氏は次のようにも書かれています。
教育内容・教育方法の研究は、教育現場の実践を批判・修正し、新たな実践を創り出すのに寄与するようなものであるべきである。つまり、現実の実践に対して責任を負うべきものである。また、研究は実践を導くとともに、実践によってためされ、批判・修正されるべきものである。研究と実践とがこのように相互に鍛えあうきびしい関係が必要である。いいかえれば、研究と実践の間に精神の活発な往復運動が持続しているべきである。出典:「創立にあたって」1987年11月5日 宇佐美 寛
これはまさに私が所属しているTOSS(Teachers’ Organization of Skill Sharing)の活動理念と同じものです。
【多様性の原理】教育技術はさまざまである。できるだけ多くの方法をとりあげる。
【連続性の原理】完成された教育技術は存在しない。常に検討・修正の対象とされる。
【実証性の原理】主張は教材・発問・指示・留意点・結果を明示した記録を根拠とする。
【主体性の原理】多くの技術から,自分の学級に適した方法を選択するのは教師自身である。出典:「TOSSについて」
40年前の学校教育界は「技術」という言葉を表面的な印象だけで非難していました。
この学会はそうした実態に対する異議申し立てであったと認識しています。
実践に対して責任を持たなければ、教育内容・教育方法の研究は出来ない。実践と研究との相互批判・相互修正というあり方こそが《技術》である。実践の形にまで具体化された理論、理論に支えられた実践、それが《技術》である。このことを自覚すれば、「日本教育技術学会」という存在の必要が意識されるのは、全く自然なことである。出典:「創立にあたって」1987年11月5日 宇佐美 寛
2.向山洋一教育賞とは
「向山洋一教育賞」は、この学会の名誉顧問である「向山洋一」の名のもとに、教育技術の開発、普及、発展を願い、創設されました。出典:「向山洋一教育賞とは」
論文の募集は今年で3回目になります。
私は学校現場を離れていましたが、高校生への出前授業という実践をしていましたので、そのことを論文に書いて応募しました。
授賞式での発表スライドです。
3.問題提起
研究論文を書いて感じたのは、《研究って大変だなあ》ということでした。
正直、私の論文は統計処理をしていませんし、まだまだ「研究」と呼べるものではありません。
先行実践を調べるだけでも力尽きた感じです。
ですから本当に研究者の方のお仕事を心から尊敬できました。
ただ、この学会の趣旨にもあるように、この賞は《研究と実践をつなぐもの》だと思いますので、難しくし過ぎるのはよくありません。
その点では、私の論文はもっとシンプルにすべきだったと反省しています。
しかし、実践者には実践者の魂があります。
私は実践を通して問題提起をすることが自分の役割だと考えました。
1.問題の所在
親の養育能力が低下しているという実態があるならば、その低下をなくす、あるいは緩和させる方向で〈子育て教育〉が行われるべきである。しかし、高等学校「家庭基礎」の教科書の内容は〈発達の仕方〉の説明が多く〈対応の仕方〉すなわち〈子育ての仕方〉に
関する記述は少ない。高等学校学習指導要領では「乳幼児と適切に関わるための基礎的な技能を身に付けること」となっているにもかかわらず、単位数と教科書内容のバランスがとれておらず、「基礎的な技能を身につけること」には対応できていないと考えざるを得
ない。特に、乳児期の子育てにおいて最も重要とされる愛着形成の仕方についての教科書における記述が不十分なのは問題である。
また、「退屈」という状態が高まる高校生の実態に打ち克つためには、小中学校で行われる授業以上に工夫が求められる。どのような工夫が必要なのかを明らかにし、その工夫を共有しなければならない。
出典:「向山洋一の〈クイズの原則〉で〈子育て教育〉を創る」
もう少し紙幅があれば「課題価値理論」について解説したかったのですが、それ以外はすべての内容を詰め込むことができました。
「課題価値理論」に興味のある方は、解良優基氏の論文を読んでみてください。解良優基(2018):学業場面における課題価値の機能と規定因の検討 課題価値の多面性に着目して(名古屋大学大学院教育発達科学研究科)
4.出前授業「赤ちゃん学」4000人突破!
それにしましても、私の論文で何と言っても特徴的なのは、この実践を本として出版していただけたことです。
出前授業「赤ちゃん学」の授業分析を研究論文にし、最先端実践賞という名誉ある賞をいただけたことと、『みんなの子育てスキル』という本を出版できたことは、今年の私にとって大きな出来事でした。
現在、出前授業「赤ちゃん学」の受講人数は4335人となりました。
年内に4000名を突破することができました! 参照:出前授業「赤ちゃん学」
『みんなの子育てスキル』はこれからです!
応援よろしくお願いします。
『未来のために知っておきたい みんなの子育てスキル』水野正司著・間宮彩智イラスト(マイクロマガジン)